夕暮れと夜の狭間

ずっと、どこかに帰りたいと思っている。
高校生の頃、家に帰りたくなくて――ドアノブをどうしても回すことが出来なくて――回れ右をして、夕暮れと夜の狭間をずっと彷徨っていた。
一時間に一回くらいしか電車が来ない線路の真ん中に立って、夜が夕空を侵食していくのをぼんやりと眺めていた。
帰りたい、と思った。
でも、どこへ帰りたいのか分からなかった。
あの頃からずっと、私は迷子になったまま、帰りたい帰りたいと言いながら彷徨っている。
***
皆さん、初めまして。
この度、22号室に住ませていただくことになりました、しづくと申します。
私は現在大学四年生で、文学を研究する傍ら、自分でも小説や詩を書いています。
おどりばの大家さんにメッセージを送ったきっかけは、自分の将来に絶望してしまったことでした。私は春先からの就職活動や、考えすぎ、感じすぎてしまう自分の性格、身体の弱さや家庭のいざこざ、そして捨てられない「好きなこと」と向き合う中で、自分が来年から生きている姿を一切思い描けなくなってしまいました。表情は動かないのに涙だけが絶えず流れ続ける日々。メイクはしてもしてもすぐに落ちてしまうし、バスの中、カフェの中、道端、どこにいても涙が溢れてしまうので、人目のつかない所に逃げるしかない毎日。トイレの中で泣きながら、どうしよう、どうにかしなきゃと思い、けれどどうしたら良いのか分からず、一人で震えていました。
そんな時、以前から存在を知り気になっていた「おどりば」のことを思い出しました。けれど、実際に問い合わせることは出来ずにいました。自分の文章をさらけ出すということは、隠している自分の部分をさらけ出すのと同じで、とても勇気が要ることだと思ったから。
でも、誰かに私の思いを聞いて欲しい、私に、ここで文章を書かせてほしい――迷惑がられるかもしれないと震えながら、不安で潰れそうになりながら、気づくと私はメッセージを送っていました。
私が勇気を振り絞ったタイミングと、お部屋が空いていたタイミングが一緒だったのは、小さな運命のようなものだったのかもしれません。
プロフィールを書いて下さい、と言われた時、とても迷いました。自分の今の肩書きが何なのか、分からなかったから。
学生だけれど、今年は就活生と言った方がふさわしいような生活を送っている。フリーターでもない、社会人でもない。子供でも、大人でもないような気がする。
ああ、私は狭間にいる、と思いました。
何かの狭間はいつだって苦しい。
悩んだ末、プロフィールには、小説家と書かせていただきました。それは私のなりたい姿であり、あり続けたい姿でした。
私は幼い頃から、小説を書き続けてきました。それこそ、どこでも――病室で、教室で、リビングで、寝室で――どこにでも――自由帳に、ティッシュ箱の裏に、テスト用紙の余白に――物語を書いてしまうような子でした。
多分私は、小説を書くことで、必死に息をしてきたのだと思います。きっと書くことでしか、生き延びることが出来なかった。
小説を書くことは、死にたがりの私にとって、大切な生きる理由でした。
身の程知らずを承知で言ってしまえば、私は小説家として生きていきたいと思っています。
だからせめて――おどりばでは、小説家、と書かせていただくことにしました。
これから、私の拙いひとりごとにお付き合いして下さると嬉しいです。よろしくお願い致します。
では、改めて自己紹介を――。
私は、迷子のちっぽけな小説家です。
文章にのせて
あなたが心をさらけ出すことで
あなたも救われるし、誰かも救われる。
ここに来てくれて、うれしいです。
迷子の小説家さんが、
自分なりの道を見つけるまでの日々を覗けるのが楽しみです。
これから、よろしくね。
同じ大学同じ学部で修羅くぐったのでコメントせずにはいられなかった。
7号室 うめこ
うめこさん
メッセージ、ありがとうございます。
実は、うめこさんのことは、友人伝いで以前から存じていました。
いくつもの波を潜り抜けた後の、透明な水のように綺麗で、心の深いところまで静かに染みていく、そんな言葉を紡ぐ人だなあと思い、ひそかに憧れていました。
おどりばという場所で、こうして出会うことが出来てとても嬉しいです。
お話したいこと、聞きたいことが沢山あります。
これから、よろしくお願いします。
先輩。
22号室 しづく