12月

住人

先日、食品衛生管理責任者という資格を取るため、講義会場がある神奈川に行った。

この状況にも関わらず、受講者は思ったよりも多かった。2人がけの机が会場にはぎっしり並んでいるその景色は大学の受験会場を思い出す。

私の番号が書かれている席はホワイトボードの一番近く、一番前の席だった。奇しくもセンター試験の時と同じだ。

前日に同じ講義を受けていた同じ寮の友人から「眠くなるよ」ときかされていたから覚悟はしていたが、案の定講義開始10分で睡魔に襲われる。

目を開けるため瞼の筋肉を使う。

午前中の部が終わり、お昼休憩に入った。近くにスーパーのSがあり、私はそこで弁当を買うことにした。Sのマークを見た時、なぜか私は胸が締め付けられた。

思い出した。

幼稚園児くらいの頃、私は母のお姉さん、つまり叔母とよく祖父母の家から近いSに連れて行ってもらっていた。

その時は祖父母の家にいた。

Sに行くたびにガリガリ君を買ってくれた。

お姉さんはガリガリ君を買ってくれるたびに、私に言った。

「ガリガリな〇〇くんにはガリガリ君がぴったりだわ」

いつもはガリガリ君だけど、唯一それがハーゲンダッツだったときがある。クリスマスの日だ。

「本当はね、私はあなたの味方ではないのよ。仕方なく、面倒を見てるの。私、あなたのお父さんが憎いの。だからあなたにその血が入っていると思うとぞっとする。私の妹のことを思うとね」

ハーゲンダッツを私に渡して、叔母はそう言った。

その時のハーゲンダッツの味はしなかった。

叔母はその日を境に私をSに連れて行かなくなった。

年が明けると叔母は祖父母の家を出て行った。

中学に上がって、祖母に一回叔母の行方を聴いたことがあるが、北の方に行った、と言われただけだ。北の方、とは随分と古風な濁し方をされた。

目の前にハーゲンダッツがある。私は気がついたら買っていた。教室に帰り、残された昼休みを、ハーゲンダッツを食すことに使う。バニラの香りで安心する。

忍田 広昌

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