対話療法
私
「たすけて こわい」
俺
「なにがこわいの?」
私
「全部、すべてが、こわい
ひとが、こわい」
俺
「どうして」
私
「悪意が
こわい
振り払っても
振り払っても
こわい
好意もいつか
悪意に変わってしまう気が する」
俺
「もう過去のことじゃないの」
私
「わかってる
全部わすれたい
お願いだから
忘れさせてほしいのに
忘れたい
忘れたい」
俺
「あなたは他人に負の感情を抱くくらいなら
自分が消えればいいと思ってしまうんだね」
私
「うん でも
でもね
私 しあわせになりたいんだよ」
俺
「なろうと頑張ってんじゃん」
私
「でも
しあわせになろうとするたび
声が反響する
こわい
こわい
こわい
私はずっと死にたかったから、
死にたい私を知っているひとは、
私がしあわせになることを
ゆるしてくれないんだって思う
こわい
私だって前向きに生きたい
私生きたくなっちゃってさ
変かな
変わっちゃだめなのかな
変わったら 誰かが
私を嫌うかな 恨まれるかな
私が一体なにをした?
なにもしてない
ただ生きていただけなのに」
俺
「誰からも嫌われたくないの?八方美人だね」
私
「それいわないで、一番いわれたくない
二度と言わないで
こわい
こわい
こわい」
俺
「でも誰のことも恨んでいない
ひたすらに幸せを願ってばかりで
やさしいんだね きみは」
私
「やさしくない
やさしいって嫌い
大嫌い
恨みは何もうまないから
私は誰からも恨まれたくないから
だから誰のことも恨まない
みんな幸せでいてほしい
それは本当に本当で本当なんだけど
やさしくなんてない
私はこわいだけ
もう
二度と
私は私の人生を壊したくない」
俺
「壊れた人生を生きてるの?」
私
「壊れてない人生なんてあるの?」
俺
「おちついて、あなたはつかれているだけだよ
人生は元来素晴らしいよ」
私
「肯定できないときに
肯定しなきゃいけないのがくるしかった
私だって
自分の身を守るために
逃げなければならないときだってあった
ゆるして
こわい
お願いだからもう二度とって
思ってしまう
でもそれはゆるされない」
俺
「どうして?」
私
「どうしてだろう わからない
私をゆるしていないのは誰だろう」
俺
「ひとがこわいんだね
さみしい?」
私
「うるさい」
俺
「キスしてあげよっか」
私
「うるさい」
俺
「俺を呼んだのはあなたじゃないか」
私
「うん 私が呼んだ
でもこういうことは
あんまり心身によくないらしい
本当は、他人と会話しなきゃいけないらしい」
俺
「俺と付き合う?」
私
「できないよ」
俺
「どうして」
私
「あなたはあまりにも私の顔をしているから」
俺
「ああ ちゃんとわかってるんだ」
私
「あなたは私のなかにしかいない
だから傷つけることは言わない
でも 私のなかにある以上のことばを
くれることもない」
俺
「俺はもうすぐいくよ」
私
「どこに」
俺
「あなたのなかに帰らなきゃ」
私
「いなくなるの?」
俺
「もとからいるし、もとからいないよ」
私
「ねえ
最後にきいてほしい
私これからどうやって生きてったらいい
ひとがこわい
でもひとと生きたい
全部肯定しなきゃいけない
でも
肯定するのがこわいとき
どうしたらいい
思い出すだけで発作が起きて
どうしようもないのに
ゆるさなきゃだめなのかな
拒みたかったら拒んでいいって
誰かいってほしかった
ゆるせないことはゆるせないままでいいって
ゆるしてほしかった
私心を壊してまで
傷ついていないふりしなくていいよって
もう二度と触れたくないことだって
あってもいいよって
ゆるしたいのかな
ゆるすってなんだろう
消えないのに ゆるせないままで
みんなしあわせになれるかな
私も誰も彼もみんなみんなみんな、」
俺
「大丈夫だよ」
私
「それ、みんな私にいうんだよ
大丈夫じゃないのに」
俺
「大丈夫だよ」
私
「うるさい」
俺
「キスしてあげよっか」
私
「うるさい、どうして、みんなすぐそうやってさ
優しいだけのことばで
私をぐちゃぐちゃにするんだよ」
俺
「俺があなたなら、あなたをそんなに悲しませたりはしないのに」
私
「うるさいよ、あなたは私じゃないの」
俺
「俺はあなただよ
だからあなたは幸せになれるって言ってんの」
私
「私は」
俺
「幸せになることをいい加減ゆるされていいよ
そしたら俺は安心していなくなれる」
刹那、暗転
もうすぐ冬がやってくる
私の声のナレーションが
誰もいない舞台に響いている
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