ハロー・グリーンピース
アルバイト先の賄いを残したことがある。スパイスからじっくり仕込んだ特製のカレーを、たっぷりとかけたパスタ。美味しくないわけがない。
じゃあ、なぜ?
その上にかかっていたグリーンピースが苦手だったからだ。正確にいうと、グリーンピースだけ食べなかった。
固いんだか柔らかいんだかよく分からないあの食感、青臭いんだか甘いんだかよく分からないあの味。
なんだか中途半端で好きになれなかった。
これなんで入ってるの?彩り?
マスターと2人で食べるひと皿だったから、まあいいかと思った。マスターが食べたくて入れたんでしょ。わたしは大丈夫です。いりません。
そう思っていたら、いきなりだ。
「え、なんでグリーンピースだけ残すん?」
マスターからのツッコミ。ここは正直に。
「グリーンピース、苦手なんですよね。せっかく作っていただいたのに申し訳ないんですけど」
ヘラヘラと答えたわたしに、彼はこう続けた。
「食べ物の好き嫌いはそうやって簡単にできるかもしらんよ。でも、これからの人生、なんでもかんでもそうやって好きと嫌いに分けて生きていくん?」
今考えてみれば突飛な理論だ。グリーンピースはあくまでもグリーンピースだから。人生じゃない。
でもこの時深夜1時。夜のテンションでアッパーガールになっていたわたしは、「グリーンピースごときでなんで説教されにゃいかんのよ」と、負けずに反論。
「わたしに『グリーンピース、おいしくない…』って思われながら食べられるよりも、グリーンピースを食べたくて入れたマスターに食べられた方が、グリーンピース的にも幸せでしょ。ほかのことだって同じじゃないですか?わたしが苦手なことを好きな人に、対応はお任せしますよ」
マスターは静かに、「そうじゃないねん」と言った。
彼がなぜそんなことを言い出したのか、その時はよく分からなかった。賄い残されてショックだったのかな、とか。ディスカッションがしたい気分だったのかな、とか。(ちなみに、マスターは「朝まで生テレビ」を地で行く男だ。捕まったら最後、なかなか離してもらえない)
でも、今はちょっとわかる気がする。
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「もう無理、できない、やりたくない、間に合わない」って半泣きだったライティングの仕事。諦め悪く食いついていたら、デッドまでになんとか終了。達成感に、拳を握った。
「性格合わない、顔も合わせたくない、言うこと聞きたくない」って思っていた先輩。自分の仕事を押して、わたしの仕事まで肩代わりしてくれていた。
「嫌い」のフィルターを外してみたら、見える景色が変わる。「好きかも」に変わる瞬間は、なにものにも変えがたいと知った。愚直にトライアンドエラーを繰り返すのも、案外悪くないのかもしれない。
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さて。
先日、ひさしぶりに横浜中華街に行ってきました。路地裏の飯店で出てきた炒飯にはプリプリのグリーンピース。「うぅ〜…」と思いながら、ひとくち。
これがね、
結構おいしかったんですよ。
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