心動かすもの

ずっと、上手になりたかったんです。

絵でも、歌でも、演技でも。上手になりたかった。

それで、私はどうやら、自分でも気が付かないうちに「型」にばかりこだわるようになっていました。

少し前、ある人に言われたんです。

「あなたの演技は、技術にばかり目が向いていて、『演技』をしようとしている」

この言葉、演劇経験のない人が聞いたら相当矛盾した言葉だと思います。でも、私はこれに随分とハッとさせられました。

不思議なもので、私が中学生の頃に演劇を始めたのは、感情をつくることが面白くてたまらなかったからのはず。役が喜んでいるとき、私の心には喜びがあふれ、役が泣いているとき、私の心は悲しみに満ちていました。でも、当時の私は、それはそれは演技が下手でした。なぜって、いくら感情が自分の中でできていても、それを表現する技術が欠片もなかったから。キャストは部員みんなで投票制で決めていたので、初めのころは全く役がまわってきませんでした。いつもいつも裏方でいることが悔しくて悲しくて、私は演技の「型」を覚えることを努力しました。抑揚の付け方や、間のとり方。とにかく「演技」をしようと。

その結果、私の演技は「演技の演技」となってしまっていたんですね。実に滑稽です。演劇は、「本物を」演じるもの。そんな当たり前のことをすっかり忘れて、結果として、どんどん間違った方向に進んでいたんです。演じることにすがってきた一方で、ずっと「何かが」苦しかった。当然ですね。

写真のような絵は、確かに綺麗かもしれないが心を動かさない。それと同じで、「型」だけできた演技は、邪魔にこそならなくても、だれも気にとめない。だって、そこに「心」とか「気持ちのエネルギー」みたいなものがないから。それに「型」にとらわれることで、本当の意味では集中ができていないから、一緒に演じている人の目や、お客様の目が気になって気になってどうしようもなくて、緊張してしまう。そうしたら、その「型」すらできなくなってしまう。よくよく考えれば当たり前のことです。

演技は、自分でも信じられないけれど、少しは技術が身についているらしいのです。それと、文章も。だから、これからは思い切って、もう、ある程度かっこ悪くても、自分の気持ちとか、エネルギ―を優先にしてみたいなって、思ったんです。

で、まずはそれを意識して、一人で台本を読んでみました。

楽しい。

楽しい楽しい楽しい！！！

びっくりするくらい、信じられないくらいに、楽しかったんです。そういえば、演劇をはじめたころもそうでした。誰かと比べたりしていなかった時期、自分の演技に自信があるとかないとか、そんな概念もなかった時期。ただ、感情をつくる演技は、めちゃくちゃに楽しい。だって、私は今その役に「なって」いるのだから、うまいも下手も、私の中にはありません。それは見た人が決めることで、演じている最中の私には何も関係ない。

もちろん、急には、「型を気にしない」ことも、「技術を他人と比べない」ことも完璧にはできません。でも、「うまくて美しくて整っているけれど響かないもの」より、「へたくそで目も当てられないけど気持ちはなんとなく伝わる」方を選びたい。「賞賛されるものを生み出しても楽しくない」より、「けなされても楽しい」ことをしたい。と、思いました。

もちろん技術も大事なのでないがしろにする気はありませんが、今回これに気がつけて本当に目から鱗だったので、しばらくは「好き」と「気持ちのエネルギー」と「集中」で表現活動をするように意識してみたいな、と思っています。

≪追伸≫　最近、いろんなことに手を付けすぎて、みんな中途半端になってきて、本当に申し訳なく思っています。せっかくいただいたこちらのコメントにも返信ができていなかったり（大切に読んで、ちゃんとうれしくなってはおります）。たくさんの人にごめんなさい。気持ちはかなり立て直しつつあって、でもそのエネルギ―はこれから演劇（と、大学のいろいろ）に向かいそうです。めちゃくちゃにわがままですが、どうかお許しください。