カタチにしたい思いがある。

住人

ピロリロリン。ピロリロリン。
鳴り響く避難勧告の知らせ。
水は生き物のように、大切な様々なものを飲み込んでいった。

ーーーーーーーーーー

台風19号。
千曲川の決壊。

台風が直撃した土曜日の夜。
ピロリロリン。ピロリロリン。
携帯の警告音が鳴り響いた。
「避難勧告」の文字。
「避難してください」の防災無線。
非日常は突然訪れた。

ハザードマップを開く。
赤くなっているこのうちは大丈夫なのだろうか??
2階に家族で大事なものを運んだ。
心がざわついて仕方なかった。

夜中も鳴る、携帯の警告音。
怖くて仕方なかった。

ーーー

一夜が明けた。

青空がのぞいていた。
いつもの日曜日…かに見えた。

朝から自宅は停電していた。
10時ごろ外に出た。
500メートルほど歩いたところ。
渋滞と人だかりができていた。

黄土色の泥水が、道路を塞いでいた。
「通行止め」
警備員さんが行く手を止めていた。

携帯のtwitterの投稿。自宅から1km先の母校の東北中学校の様子が映っていた。
腰まで水に浸かりながら、作業する人の姿。
「ウチもあと少しで危なかったんだな…」
ぎりぎりのところだった。

ーーー

夜が来た。
自宅の停電は2日間続いた。
ロウソクの灯りと、懐中電灯で過ごす。
テレビは見れない。
携帯の充電もパソコンの充電も残り少なくなっていた。
ルーターの電源も切れているので、wifiも飛ばない。
停電の不便さを初めて知った。

ーーー

僕の家は幸い水も来ることもなく、
大丈夫だった。
月曜日から会社に行って、仕事をする。
帰って、普通に夕食を食べて、温かい布団で寝る。

「通常の生活」にすぐに戻った。
「通常の生活」にすぐに慣れた。

ーーー

次の土日。
SNSには、ボランティアで活動する知り合いの姿がたくさん流れてきた。
「すごいな」
そう思った。
僕なんか、体調を崩し気味で、ダメダメなのに。
もやもやとした形にできない思いが募った。

ーーー

「ロゴマークを作ってほしい」

Facebookのメッセンジャーに友達のハタコシ君(おどりばの大家さん)から連絡がきた。
どうやら、ハタコシ君の知り合いのりんご畑「フルプロ農園」さんが被災したらしい。
「フルプロ農園」さんは、水没した新幹線基地の隣にある。
倉庫に置いていたりんごも含めすべて全滅だったようだ。

そして、アップルライン沿いの多くのりんご畑に甚大な被害が及んでいるとのことだった。

『「長野アップルライン復興プロジェクト」と銘打ち、美味しいりんご畑が広がる風景を取り戻したい!』
静かで熱い思いが、ひしひしと伝わってきた。

クラウドファンディングなどを通じての資金集め。短期的ではなく、長期的な視点を持って。

「そのプロジェクトのロゴマークを作って欲しい。」

すぐに快諾した。

災害が起こってから、ずっともやもやとしていた。
何も出来ない自分に無力感を感じていた。

「少しでも力になれる!」
嬉しくて嬉しくてたまらなかった。

一生懸命に考えた。
沢山の人の思いをカタチにするために。

何回かの修正や変更を経て、カタチとなった。

完成したロゴマーク

ーーー

「絵は心で描くものなんだよ。」
そういつも言ってくれた、おじいちゃん。

絵もデザインも写真も、全てそうだ。

心を込めて、カタチにしたものは、きっと伝わる。
いいものになる。

「人の思いをカタチにしたい!」

そう強く思った。

忘れちゃいけない思いを胸に刻んで。

11月13日より個展を開催します!
「ロクガワトモヒロの不思議な世界展」詳細はこちら。
https://kerokunkun.hatenablog.com/entry/2019/09/28/133536

roku

「街をクリエイティブに彩る!」看板屋さんに勤めるデザイナーです。イラストが得意です。粘土で立体を作ったりもします。考えながら、悩みながら、楽しみながら、日々...

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