ニュースタンダードを探して

住人

生きるのに難航している。

といっても、単に世の中が生きづらいとかそういうのではない。

生活がしづらい。

原因は例によって、体が変わったことだ。

小腸の臓器移植をしてから、もうすぐ100日。

6月の頭に東京の仮住まいに退院をした。

人生で初の東京暮らし!と本気で楽しみにしていた。


ただ、現実はそうは甘くなかった。

退院後のスケジュールや注意事項を見て、驚いた。

・朝の体温測定、体重測定、血圧測定

・決まった時間に免疫抑制剤を飲むために、決まった時間までに食事を終えなければいけない。

・その食事も、生はダメ(果物、野菜も)、脂質制限(通常は一日60g摂取のところ、一日15g以内に抑える)。

・薬の副作用で血糖が前後するので、朝、昼、夕、寝る前に測定、インスリンを注射。

・点滴を一日2種類つなげる。これも時間で決まっている。

・ここにストーマ(人工肛門)の管理が随時加わる。(体から出ていく分を測る。これによって薬が増減する)

・午前中いっぱいかかる週二回の通院に、1時間かけて通う。

・食べたものや歩いた距離、一日の過ごした様子などを細かく書いていく。


そこに暮らしの買い物や、ごみの処理、掃除などの家事が加わる。

(といっても家族が一緒に上京しているので、家事はかなり助かっている)


毎朝起きてからの体調が違う。

朝良くても午後に悪くなったり、朝良くなくても夕方良かったり。

今まで、自分の体に振り回されることはあった。

そこに「状況」に振り回されることがついてきた。

2時間とか昼寝しようものなら、薬が遅れたりする。

正直、最初は「こんな状態で家帰らすなよ…」と思った。


だけど人間やってみればなんとかなるもの。

20日経った現在、なんとかこなしている。

まだ「ここでの生活にも慣れてきたな」とまではいかない。

だけど、暮らせるようにはなった。


タクシーで退院してきた。

次の日には近くのコンビニまで歩いた。

別の日には10分歩いて、駅まで行かれるようになった。

近くの商店街まで買い物に行かれるようになった。

図書館で本を借りられるようになった。

活字の1節を読めるようになった。

頭がクリアになっていく時間帯が増えてきた。

100㌻の本を読めるようになった。

200㌻の本を読めるようになった。

部屋の掃除ができるようになった。

何かを書こうと思えるようになってきた。

体調の悪さを改めて感じられるようになった。

脂質制限が15g/日から25g/日になった。

週末、家族が長野へ帰れるようになった。


一つずつニュースタンダードを掴んでいっている。

でも、まだまだ先は長い。

もしかしたら「移植しない方が良かった」と思う日が来るかもしれない。

実際そう思ったこともある。

自分自身ではどうにもできない体のルールが。苦しみの質が変わったのだ。

この治療、良いデータや良い話だけが聞こえてくるわけではない。

適切な管理をしなければたちまち臓器は拒絶反応をしめし、ダメになってしまうことだってあるし、死んでしまうことだってある。

正直、日々の管理に萎えそうなときもある。

つらい、しんどいは常に根底にある。

それが消えることはないのかもしれないが、薄れていくかもしれない。

まだまだ未知数。

都会の蒸し暑さを享受しながら、今日も新しい臓器と生活をしていく。

sarami

生き意地の汚い人生を 送っています。

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