p.5:嘘の海に溺れて、遭難しました
メーデー、メーデー、メーデー。こちらはうめこ。
謝りたいことがあります。
みなさんに、私自身に。
嘘をついてごめんなさい。違和感を無視し続けてごめんなさい。
すごい人になりたくて頑張ってきたけれど。わたし、本当はもう頑張りたくないです。
ずっと感じていた違和感があった。
-すごい人になりたいから、東京に行きます
「就職先決まったの?おめでとう!」
「東京に行くんだ!それじゃあこれから楽しみだね」
「うめこちゃんはどこに行ってもやっていけるよ!」
「成功する人は苦労する道を選んでいるから、うちの会社で頑張ってみなさい」
「最初はつらいかもしれないけど、慣れたらきっと大丈夫だよ」
そうですねとヘラヘラ笑いながら、私の心はずっと叫んでいた。本当は、聞こえていた。
東京が怖くて怖くて仕方ないのに、長野が好きなのに、それでも東京に行ってまで「すごい人」になりたいの?そこまでしたら、本当にすごい人になれるの?
私自身はおめでたいなんて、思っていないんです。
叫んでいた。
全然楽しみじゃない。
怖い。怖い。怖い。
大変な仕事をしたくないわけじゃなくて、そうじゃなくて、ただただ怖い。
東京で生きていくということが、怖い。
叫んでいた。叫んでいた。
なのに!
私は、無視し続けた。もう10月だ。
内定式のために、東京へ行った。だいたい3か月ぶり。東京に着いたときから、嫌な感じがした。人の匂いが強すぎる。雑音が大きすぎる。久しぶりだからだろうか。うまく息ができない。
内定式の日、気になっているアパートの内見に行った。銘柄の混じったタバコ臭い不動産屋で、あんまり仲良くない部活の後輩相手みたいな、雑な対応をされる。ほかのスタッフは私と目を合わせてくれない。
しかも連れて行ってもらったアパートは、事前に見せてほしいと伝えていた場所ではなかった。自分の勘違いだったら申し訳ないと思って、私は何も言えずに内見を終えた。
内定式のあとの歓迎会で同期や上司にこの話をしたら、壺とか売られるよ、と笑われた。
歓迎会は楽しかった。職場は変わっている人ばかりだけど、雰囲気はいいと思うし同期もみんないい人そう。だけど、同期も楽しそうに聞いている上司の話が、全然理解できない。ここにいる自分が、いつまで経ってもしっくりこない。
東京には4日間滞在した。初対面の人と接する機会も何度かあった。目の前にいる「これから顔見知り以上になるひと」は、みんな優しかった。一方で、それ以外の人はどうも冷たい気がしてしまった。
東京に住んでいる人が「東京にはいろんな人がいるから、本当にいろんなことが起きる。自分の感度を下げて何も感じなくならないと、やっていけない。」と言っていた。東京で息をするには、いまの私は感度が高すぎるのだと思う。
東京滞在最終日の夜のこと。大宮発の新幹線に乗りたくて、渋谷から埼京線に乗ろうとしたら、見事に退勤ラッシュ真っただ中。人の流れに流されて、乗った電車の発車時刻が、乗ろうとしていたものとは違っていた。すし詰めの車内でとっさにスマホを見ようとした途端、電源が切れる。頭が真っ白になった。
焦った私は、次の新宿駅で電車を降りた。人が多すぎて駅員さんを見つけられなくて、結局近くにいた人に大宮行きの電車を調べてもらった。何とか電車に乗れたものの、またすし詰め。知らない人と身体が触れている。隣の外国人は知らない言語で何かを喋っている。誰に話しかけているかわからない。誰も反応しない。何かがぷつんと切れる音がした。涙が止まらない。
満員電車の中でぐすぐす泣いているのが恥ずかしくて、荷物で顔を隠しながら泣いた。次の池袋で、人の流れに流されて、電車の外に出る。泣いていたから前がよく見えない。また車両に戻ろうとすると、「ドアが閉まります」とアナウンス。焦って進んだ先には、地面がなかった。
私は、ホームと電車の間に落ちたのだ。たぶん落ちたのは右足だけだったと思う。後ろにいた人が「おい!」と叫んだ。ような気がする。とにかくドアが閉まってしまう気がして慌てて這い上がる。荷物を引っ張り上げてくれた人はいたけれど、声をかけてくれる人は誰もいない。人が多かったから仕方ないのかもしれない。落ちたときに負傷したであろう足はとても痛かったけど、もちろん誰も席を譲ってくれない。
私はさらに悲しくなって、泣いた。池袋から大宮に着くまで、ずっと泣いた。この空間にいるすべての人が怖い。息ができない。めまいがする。ここに私を助けてくれる人はいない。誰か、誰か―
痛む足を引きずりながら、なんとか帰宅することができた。今でも思い出すと涙が出てくる。
「それ見たことか」
心の中から声がする。
無視し続けていた心の声が。
「東京、住みたくない。長野にいたい。東京に行かなきゃすごい人になれないなら、私はすごい人になんてなりたくない。」
―どうして今さら。
「今さらじゃないよ。ずっと叫んでた。本当は聞こえていたでしょう。」
―だって、すごい人になりたかったの。東京に行くことで、成長できると思ったの。今までできなかったこと、できたら、すごい人になれると思ったの。いろいろな人がいて、いろいろなものが並ぶ東京に住んだら、もっといろいろなことが書けるようになると思ったの。
「強すぎるにおいも、大きい音も、人ごみも、人からの冷たい態度も、苦手なのに?わかっていたことなのに?東京に行けばそれだけですごくなれると?」
―あのときは、そう思っていました。
「私は、怖いよ。いつか来るかもしれない大きな津波も、山に守られてきたから知らない台風も、夜道をすれ違う他人も、東京オリンピックも、真っ先に落ちてくるかもしれない爆弾も。この恐怖を、この不安を無視してまで、すごい人になりたいの?そんな覚悟、あなたにはあるの?ないよね?そもそもちゃんと、将来のことなんて真剣に考えてなかったよね?就活を白紙にするのが怖くて、早くみんなと同じレールに戻りたくて、かっこいい理由つけて、自分を丸め込んだだけだよね?私のこと、ごまかせると思った?」
うるさい。うるさい!わかんないよ!今さら、どうしろっていうんだよ!
東京へ住むことへの不安を吐き出すと、多くの人はしばらくすれば慣れるよ、と笑う。本当に?
長野にいても、自然災害が怖いのに?すれ違う人が怖いのに?地下を歩くのが怖いのに?
そんな恐怖から目をそらしてまで東京で頑張らないと、私は私を許せないんだろうか。24にもなって、自分の将来すらまともに決められない。恥ずかしい。もう、どうして生きているんだろう。私はなにがしたいんだろう。生きていることが恥ずかしい!
外を歩くと、金木犀の香りがする。
すごい人になりたくて駆け抜けた夏が、もう終わる。胸を張ってしたはずの決意も、揺らいでいる。
東京はいつ行っても、キラキラしている。初めて見る景色がたくさんあって、新鮮で、楽しい場所だ。東京に行けばきっと、新しい経験がたくさんできると思う。人ごみは怖いけど、出会う人はきっと悪い人ばかりじゃない。わかってる。わかってるよ。
でも今は、「とりあえず行ってみよう」なんて思えない。すごい人になるために、頑張ろうって思えない。長野にいてはいけませんか?長野にいたら、すごい人にはなれませんか?
そもそも、すごい人にならないと自分を許せない自分ってなんなんだろう。すごい人ってなんなんだろう。今さら逃げようとしてる。自分の気持ちを無視したくせに。何を今さら。
これからどうなるんだろう、私の人生。思考が無限ループ。繰り返される。息ができない。
私、どうしたら幸せになれますか。私、どうしたら自分を許せますか。
今まで嘘をついていてごめんなさい。私、初めからかっこつけていただけで、かっこよくないんです。あったかい季節は、調子がいいだけなんです。調子に乗りました。すごい人になんて、なれません。馬鹿でぐずで、ごめんなさい。すごい人になりたくて頑張ってきたけれど。わたし、本当はもう頑張りたくないです。私は私を好きになりたい。それだけなのに。
どうしたらいいのかわかりません。グーグルで調べても答えは出てきません。Siriに聞いても教えてくれません。
救難信号。誰か教えて。
うめこさん、
うめこさんの恐怖や不安、体験してしまった怖さが痛いほどに伝わってきました。
まずね、今まで無視してきた自分の心の声に耳を傾けられたうめこさんはとてもえらいです。心の声に耳を傾けないで、傾けられずに、体や心を壊してしまう人がたくさんいる中で、耳を傾けられたうめこさんは本当にえらいです。それでね、うめこさんは嘘をついてって書いてるけど、私は嘘だとは思わないです。すごい人になりたくて頑張ってきたうめこさんも、もう頑張りたくないと思ううめこさんも全部ほんとだと思います。付き合いの浅いお前に何がわかるんだって感じだけど、、、。でも、嘘じゃないと思うの。嘘をついてごめんなさい、なんて謝る必要もないと思うの。人の気持ちなんて常に変わり続けるもので、その変化を嘘ってことにしてしまうとどんどん息ができなくなってしまう気がする。
でも、今のうめこさんには「それでも東京に行っておいで」とも「長野にいていいよ」とも言えない。ごめんね。多くの人が言うように東京に住んだら住んだで慣れると思う。もしくは、長野にい続けることもありだと個人的には思う。でもこれは私は思ってるだけでうめこさんには向けたくない。書いてる時点で向けられたと思うかもしれないけど……。
今のうめこさんには、不安や弱音をたくさん吐き出すことを提案したい。私でよけれなひたすらに聞きます。年の功からいろいろ言いたくなっちゃうけど、ぐっと堪えてずっとうめこさんの不安聞きます。吐き出して、吐き出して、吐き切ろう。息ができない時は無理やり吸うんじゃなくて、吐き切ると自然に息ができるようになるから。不安もきっと似てると思う。吐き切ることは難しいけど、吐き出し続けたら、新しい考えも浮かぶと思う。そしたら、幸せになる方法や自分を許す方法の手がかりが見つかるかもしれない。私はうめこさんよりちょっとだけお姉さんだからあれこれ世話を焼きたくなってしまうの、ごめんね。でも、この数ヶ月うめこさんの記事を読んだり、実際に会ったりして思うのは、「幸せになってほしい」です。長々とごめんなさい。うめこさんは否定するかもしれないけど、私にとってうめこさんはやっぱりすごい人ですよ。
いや、もう充分頑張ったよ。
もう自分を許してあげよ???
長野にいても、すごい人になれるよ。
むしろ、長野にいるからこそ出来ることですごい人になればいいじゃない。
今なんてインターネットも発達してるし、不可能なことなんてない。
うめこちゃんは、これから何にだってなれる。
岡山県から東京に出てきたわたしだけど、全くもって偉くない。留学する夢もアイドル(笑)になる夢も途中で全部ポイッて捨てた、25歳。
東京に出てきて後悔するか、東京に出ないで後悔するか、かな。でも鬱にならなくて良かった…うめこちゃんの命があって良かった。
東京は、たまに遊びに来るところ、くらいでいいんじゃないかな…?ダメ?
うめこちゃんにしか出来ないこと、うめこちゃんのいいところ、たーーーくさんあるから、東京に来ることに絞らなくても、企業に勤めることにしなくても、充分すごい人だよ。寧ろ企業に勤めることによって、うめこちゃんのすごいところが埋もれてしまうのでは…?って思った。
わたしはうめこちゃんと出会ってまだ日が浅いけど、キラキラ光るものって伝わってくる。具体的にここに書くのは照れるから会ったときに言うね。
長野に、好きなところにいていいし、すごい人に、なれるよ。絶対に大丈夫だよ!!!
どこまで行けば自分を許してやれるのか、難しい問題よね
人によっては100m先かもしれないし、200mか、400mか、1000mかはわからないけども
あんたがどこまで行ければ心が満ちるのか、私はきいてみたいのよ
すごいひとになれなんて言わない、あんたの目指す人生を送れるように、案の1つは提供しようかなって思うのよ
応援してるよ
こんばんは、読みました。
すごい人って言葉は私はピンと来ないですが、頼りになる人って感じでいいのかな?ちょい違うかもしれませんが私の解釈で
私が頼りになる人は、単純に仕事が早い人→出来る出来ないがハッキリしてる人→弱点、長所がハッキリしてる人だと思います。
ザックリなんでかなり強引かも(^^;
私は「ジャイアントキリング」ってサッカー漫画が好きです。主人公は沢山いますが主に監督です!
その監督が「短所から始まる選手は強いよ!、自分のできない事が分かって、出来ることを伸ばそうとするから思考がシンプル」ってセリフがありますわ
そのセリフが好きで私は最近寝る前にその巻だけ読んでます、9巻かな。実際「短所から…」と言われた世良って選手が得点します!!
私も短所長所があります。社会人なのにマルチタスクは苦手だし、文書、文字は汚い、ただCADが出来るだけと思った時期もありました。
ただそんな自分も肯定してくれる漫画があるだけで嬉しくなれました。
また漫画になりますが「そんな自分という選手を認めてもいいかもしれない」ってセリフもあります。「ジャイアントキリング」はほんと名言だらけですな
今回は特にネガティブ満載の記事ですが、そこから始まるうめこさんも気になりますし、うめこさん自身がどのように認めるか楽しみです。
最後に蛇足かもしれませんが、私も初めての就職は県外でした、色々あり今は県内ですが、応援してますよ。
うめこさん
お久しぶりです。先日オフ会でお会いしたおーいです。
自分もまさに今、自分の心の声を無視していたところで、うめこさんの記事を読んで痛いほど共感してしまいました。東京は人が多く、それだけチャンスも多い場所だと個人的には思います。反面、人が多いということが一人ひとりの人間に向き合うことを難しくしているのかな、とも思います。(個人的な意見です)
自分の本心を聞くこと、逃げずに向きあうこと、本当に難しいことだと思います。でも自分を助けられてるのも、自分の味方になれるのも結局は自分しかいないんじゃないかとわたしは思います。どうしても周りからの声が大きくて自分の声を聞くのが難しいとき、私は「今死んでも後悔しないか?お前の本当にやりたいこと、本当にしたい生き方は何だ?」と自分に問いかけています。
まとまりのない文で申し訳ないです。うめこさんが良き人生を送れるよう願っております。
おーい