人生、飴と鞭

住人

この話には皆さんが期待するような「オチ」や、なにか「学び」になるようなものは、きっとないかもしれない。なんてことない人生の、ほんの1ページを切り取ってみただけの文章。 久しぶりに書いたわたしのための文章。

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22歳。社会人になってもうすぐ1年経つというときに、わたしは初めて「しにたい」と思った。

「穴掘って埋まりたい」と思うことはよくあったけど(お酒で失敗しちゃったときとかね)、「しにたい」なんて思ったことはなかったのに。

初めて1人で受ける大仕事があった。右も左もわからないまま、毎日日付が変わるまでがむしゃらに働いて、家に帰って電池が切れたかのように眠りについて。明け方、歯を食いしばっている感覚で目が覚めて、顎が痛くて、奥歯が折れてしまいそうで、でも力の抜き方がわからなくて。泣きながらもういちど眠りについて、そしたら歯が全てボロボロに溶けてしまう夢を見て、気がついたら空には太陽が昇っていた。

こりゃダメになる。やばいなあ、なんてぼんやりと思っていたところに電力会社からの電話。文明的な生活を送るために、諭吉を差し出す。

ゴミ箱の中はコンビニ弁当の空箱だらけ。未読にしているLINEの通知が45件。そうだ、今月は水道代も払わなきゃ。

ああ、生きるのって面倒だなあ。

プツン。何かが切れた。

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春先の冷たい雨。無理やり乗ったYAMAHAのVOX。午後8時30分。今日は早く帰れる。帰宅ラッシュの交差点。ここを右折。対向車がくり出すハイビーム。雨粒はミラーボール。

目が、くらんだ。

反射的にかけた急ブレーキ。ワンバウンド、ツーバウンド。目を開けたらコンクリート。

ああ、今これ、チャンスだった?

そんなことを考えたりしたけれど、神様はわたしの人生を簡単には終わらせてくれなかった。まさかの外傷なし。身体の頑丈さに驚いた。わたしゃ鉄ダルマか。

フラフラと立ち上がって道路の脇に逃げる。サラサラと降る雨は体温を簡単に奪う。ガチガチガチ、頭蓋骨に音が響いて嫌になる。うずくまってため息を吐いた。

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ハァ……………

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ブロロロ…エンジンの音。顔を上げると目の前に見覚えのある軽自動車が停まっていた。中から飛び出してきたのは先輩と上司。外出からの帰り道、偶然事故現場を目撃したらしい。暖房の効いた車の中、あったか〜いカフェオレを渡されて、なんかもう、堪らなかった。

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警察からのお咎めは、一応、なしだった(この世の終わりみたいな顔をしていたからだろうか)。気が動転して、しどろもどろなわたしの話を、ゆっくり、急かさずに聴いてくれた。警察は高圧的で嫌味な人が多いと思っていたことを、反省した。

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家に着いてから、お母さんに電話をかけた。2年前、軽井沢で買ってくれたルコックのダウンが破けちゃったから。優しい声で「帰っておいで」と言われて、喉の奥がギュッとした。

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ごめんなさい。ありがとう。ごめんなさい。ありがとう。ごめんなさい。ありがとう。ごめんなさい。

ありがとう。

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人ひとり生きていくのは大変だ。大変で、たいそうなことだ。お金もかかるし。生きている限り、このループは終わらない。

なのに神様は、逃げ出したくなったときに限ってわたしを見放さない。どうしようもなく恨みたくなるときがあるし、泣きつきたくなるときもある(というか、神様ってなんだ。いったいどこの神様なんだ)。

ずるい。ずるいよ。

これからもきっと、抗えないような何かに、誰かに、生かされるのではないかと思う(自分が生きたがっているの?まわりの人たちが生かせたがっているの?もしかして、神様は本当にいるの?)。

どうせ裏切られるし、その後優しくされるんだから、生き急ぐのはやめようか。

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ricopin

ひとりごとが多いです。

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