風に
先日、アルケミストという小説を読んだ。
この本は、社会人1年目の時に買った。
当時仲良くなった同期にオススメの本を尋ねてみたら、この本の名前を挙げてくれた。
オススメされたその日の夜にすぐに買ったけれど、6年も経つ今の今まで、読むのを忘れていた。
最近、職場で回ってくる県内町村の広報誌の中で、とある図書館長がオススメをしていたのを見て、この本を持っていたことを思い出した。
なんとなく、読むタイミングだと感じ、その日の夜に数時間かけて読みあげた。
砂漠を旅する少年の物語。
宝物のありかを目指して、ひたすら旅を続ける。
読んでいて、昔サハラ砂漠の中で2日間を過ごしたことを思い出した。
ひたすら砂の地平線に向かって、ラクダに乗り歩き続けた。
見えるのは、空と太陽と、砂。
時折生えている草。
それ以外は何もない。
非常にシンプルな世界だった。
しかし、このシンプルな世界では、普段見えないものがよく見えた。
風である。
砂漠では、風が砂の上で姿をあらわすのである。
風が砂上に「風紋」と呼ばれる模様を作り出し、刻一刻と変わっていく。
ときには大量の砂を動かし、あちこちに気まぐれな丘を作る。
砂漠全体が風の姿そのものであった。
二度とない、今この瞬間だけの世界。
アルケミストの小説の中で、少年が自分を風に変えようとする場面がある。
風に聞いても太陽に聞いても、少年が風に変わる方法は分からない。
少年は、ひたすら祈り、自分の心に向き合った。
僕はあの時、風が作り出した砂の世界を歩いていた。
僕の乗ったラクダが進むたびに、砂に新しい模様ができた。
砂の上に寝っ転んで、走り回るたびに、砂の山は崩れて形を変えた。
風と同じように、僕は新しい砂漠の形を作っていた。
誰もが、今自分がいる世界に影響を与えているが、その変化はなかなか実感できない。
風のように、目に見えない何かで、世界に働きかけているからなのかもしれない。
しかし、風が作り出す砂漠の姿のように、確実に世界を変え、ひっそりと形を作っていて、
いつか誰かがそれを見つけて「美しい」と感じるのだろう。
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