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住人

わたし、本当は、将来の目標なんてありません。憧れの職業もありません。わたしが持っているのは、迫りくる社会人としての「将来」への恐怖と不安、それから気だるさだけです。今まで希望に満ちた若者のふりをしていてすみません。

だって、未来を語れない死んだ目の若者はかわいくないでしょ。つまらないでしょ。わたし、皆さんの注目がほしかっただけなんです。興味をもってほしかった、認めてほしかった、ほめてほしかった。皆さんに見てもらうためならなんだってできたし、そんな自分が好きで誇らしかった。

でも、大学に入ってわかりました。わたしは皆さんに認めてもらいたかっただけで、そのために必要なあれこれは、やらなくて済むなら別にやりたくないの。勉強も、家事も、バイトも、本当はやりたくない。一生部屋の中に閉じこもって暮らしたいし、たまに外を散歩して季節の空気を吸って吐いたりしていたい。もうつかれました。期待に添えなくてごめんなさい。

どうしてこんなことになってしまったんだろう。

大学に入る前くらいまでは、自分の将来は輝かしいものだとどこかで信じていた。そこそこ勉強もできたから地元の進学校に通うことができたし、大学受験も志望校一本で挑んだら偶然うまくいった。この調子でわたしは順風満帆な人生を送るのだと、なんとなく思っていた。今では当時の自分がおめでたくて、まぶしくてたまらない。

大学に入学して1年くらい経ったころだろうか。何だかおかしい。始めたころは楽しかった一人暮らしも、高校までとはちがう自分でつくる時間割も、なにもうまくいかないときがあった。人生で一番といっていいほど気分が落ちて、落ちて落ちて落ちて、だんだん気づいていった。わたしは「できる」人間じゃないってことに。

周りの友達がなんてことなしにこなしていく課題が終わらない。授業中は寝ないのに必死で、いつの間にかアナウンスされていたらしいテスト範囲を友達に聞いて回って、なんとかぎりぎりで単位を取る。そんなことを繰り返していくうちに、周りが当たり前にできることができない自分に絶望していったのだ。こんな人間が教壇に立ってはいけない。こんなダメ人間が未来ある子どもたちの人生に影響を与えてはいけない。教師を志して入ってきたはずの教育学部は、急速に居心地の悪い場所になっていった。

そもそも、わたし、なんで教師になりたいと思ったんだっけ。

たぶん、「今までに出会った好きな大人の皆さんに、『立派になったね』と言われたい」という気持ちがあったからだ。

いい高校に行って、いい大学に行き、教師という、立派な人がなる職業に就けば、みんな、わたしを認めてくれるに違いない、と思ったんだ。

でも、もう、皆さんの目に留まるため、立派な自分をつくるため、の、元気が、ないよ、

わたしの元気を根こそぎ奪う決定打は教育実習の存在だった。大して授業内容も身についていない、つまり授業の作り方も教える内容も身についていないまま、三年生になってしまっていた。「まぁ何とかなるだろう」と思えるための自己肯定感は、とっくに失っていた。

教育実習が迫れば迫るほど、「できる」人間でないわたしとわたしを取り囲む状況がちぐはぐになっていった。RPGゲームで、初期装備のままボス戦に向かわされているような不安感。周りのみんなは知識と技能という鎧を身にまとって、意気揚々とボスのいる城に向かっていっている。怖かったし、怖がっている自分が情けなかった。情けなくて、絶対に引き返してはならないと思った。ここで引き返したら、いよいよみんなとの差は埋まらないほどに開いてしまう。

そして、初期装備のままボス戦を強行突破しようとしたら、ついに身体がうごかなくなった。

ある朝突然、糸がぷつんと切れたかのように、学校に行けなくなってしまったのだ。一日中布団で過ごした月曜日、カップ焼きそばで飢えをしのいだ火曜日を経て水曜日、大事な実習についての授業は休めないと思って1コマだけ登校したら、ものの15分で吐き気を催して保健室でダウンした。

あの瞬間、確かに、心と身体が叫んでいた。

実習をやりたくない。行きたくない。教師になんてなれない。好きなことだけしていたい。毎日食べたいものを食べて、見たいものだけ見て、会いたい人にだけ会って、毎晩幸せに眠りたい。頑張りたくない。実習に行きたくない。行きたくない。こんなの間違ってる。わたしは立派な人間になりたかったけど、立派な人間になるためにわたしを壊したくないよ。

そうしてわたしは、教育実習を辞退した。

わたしは、今ももがいている。

教育実習に行かないのはいいとしても、今期の授業はまだ残っている。教師になるための授業に行きたくないと叫ぶわたしがいる一方で、授業さえがんばれなくなったわたしはどうなってしまうのかという不安もある。

教師になんかなれないと思う一方で、教師になるという選択肢を捨てるのがこわい。今まで目標に掲げてきたものを今下ろしたら、わたしには何が残るんだろう。きっと何も残らない。将来の目標も、憧れの職業も持たないわたしは、ただの怠け者で甘ったれだ。全然立派じゃない。誰にも誇れない。皆さんにも見捨てられてしまいそう。

でも、今の自分は嫌いじゃない。もう少し、わがままで無気力な自分と向き合ってみようと思う。

秋からは学校からすこし距離を置くことにした。誰にも見られない、何にも求められない場所で、もしも、わたしが本当にやりたいことが見つかったら、それはとても愉快だなあ。

おてあらい花子

鼻唄みたいな言葉と、呟きみたいな歌をこぼします。20歳です。

プロフィール

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  1. 名もなき人

    ぼくの弟2人も途中から学校行けなくなりましたが今は2人とも自由にやりたい事やっていて楽しそうですw
    ゆるゆると楽しいことが見つかといいですね。

    • おてあらい花子おてあらい花子

      コメント、ありがとうございます。
      やりたいこと探しの真っ最中なので、弟さんが羨ましいと思ってしまいます(;o;)
      焦らず、楽しいほうへ向かっていけたらいいな。
      よかったら見守ってください。