変わらなきゃ変わらない!

住人

 先月の今日、18年住んだ平屋から引っ越した。人生で最も長く住んだ家だった。寂しくないわけはないが、過去よりもこれからの未来に光を感じている。新居は駅までのアクセスが良好で、わりと都会なるので(長野シティにしてみれば)気に入っている。スーパーマーケットもホームセンターも大きな公園も近い。こぢんまりした雰囲気がお気に入り。
 ただ新しいことを手に入れたら何かを失うというのは真理で、不便を感じることもしばしば。こぢんまりと言えば聞こえはいいが、正直、人間3人が住むには狭い。収納スペースが少ないので、いまだに荷解きできないほど物に溢れ、もう一度断捨離をしなければ暮らしていけない。風呂の追い炊きができないという不便さもある。なのに、家賃も前の家と比べて約3万円上がった。マンションなので掃除当番などの近所付き合いにも、以前より気を遣わねばならないだろう。それでもだ、住めば都というじゃないか。今のところ、着々と都作りができている。
 びっくりしたのは、引っ越し屋さんの繁忙期の値段と、退去の際にかかった費用のバカ高さだった。前者は30万円で閑散期の3倍。後者は40万円にものぼった。ペット特約という契約をしていたのだが、そこにはきちんと、退去の際の、畳の張り替え代や壁紙代は借主が持つことと記してあった。18年前の契約だったので、うろ覚えで、口約束で「ペットを飼ってもいい」という程度にしか認識していなかった。引っ越し業者への高額ではあったが依頼費は想定内。でも、退去に関しては寝耳に大洪水くらいの驚きだった。
 しかしながら、大事な猫との生活費だ。それはお金に換算できないほど大切な暮らし。ちょっとした遊び心で40万円÷18年間をしてみたら、年間22222円という数字が叩き出された(!)。単なる偶然だが、おかげで「もりもり仕事して稼ぐゾォ」という気持ちになれた。
 ところで娘は高校生になり、大人に近づいている。夕飯を作ってもらうこともあるし、ハッとする助言を言ってもらうこともあって、成長したなあと日々感じている。「お父さん、引っ越しでお疲れだから、今日は家事休みなよ」とか声を掛けてくれて、やさしみ。実際、引っ越しでも力になってくれて、淡々と自分の荷作りをしていたし、荷解きは家族の中でぶっちぎりで早かった。新居の家具の配置を考えたのはほかでもなく彼女だった。
 妻は平日21時以降に帰ってくるほど仕事が忙しく、引っ越しの準備をする暇もないはずだったのだが、いつの間にか荷物をまとめていた。わたしは旧居での引っ越し作業で精魂尽き果てて、今日まで何もできていない。妻はそんなわたしを怒ったりせず、娘同様「疲れているから休んで」と言ってくれている。わたしの分まで荷解きしてくれている。どこにそんな時間と体力があるのだろう。女性はすごいな、たおやかだな。家族愛に関しては、失うことは今回の引っ越しではなくて、まざまざと愛の深さを胸に刻むことになった。ありがとう、人間の家族。猫も含めたら大家族。
 4月を迎えて、仕事でも新たな挑戦をしている。週4勤務は変わらないが時間を30分延長。将来的には週5で働きたい、稼ぎたいのが本音だ。精神障がい者だから大して稼げない。毎日コツコツと通勤して働くしか術はない。時給はまだまだ上がらないだろう。とはいえ、職場には感謝していて、わたしのみならず、各利用者さんの心のケアをしてくれるし、観察も温かくしてくれていて、ありがたい。前職が最高の職場だったから(じゃあ、なんで辞めたんだという話だが)、もう堪えに堪えて今後は働くしかないと覚悟していたのに、今の職場、今まで以上に楽しい。そんな環境で稼げるってラッキーじゃないか! 引っ越しをしても、収入と支出が釣り合わないからって仕事を変えることもなかったので、より感謝しなくちゃいけないなあ。
 できれば今の家に人生最長で住み続けたい。終の棲家にしたい。娘が大学や専門学校に行ったり、一人暮らしをするとなったら、金銭的に簡単ではないだろう。でも、しがみついて、この暮らしを離さない。いずれ妻とふたり暮らしになったら、ちょうど良い、コンパクトな生活ができそうなの。総合病院も近いから老後は安心。もう一度、引っ越しの煩雑さを味わいたくないというのも正直ある。こんなに面倒だと知っていたら引っ越さなかった!というのは半分冗談で半分本音だけど、ぶっちゃけ後悔は微塵もない。過去は素敵でした。それ以上に未来は輝いているのです。
 変わることって怖さを伴うけれど、変わらなきゃいけないことはある。多額のお金を支払ってでも、今までの生活基盤を揺るがしてでも、必要な時は必要。市内から市内の引っ越しとはいえ、家以外の書く場所を失ったわたしは、書斎難民。しっくりくるところが見つかるといい。そこで新しい物語を書き綴りたいと最近強く願っている、それが光。

❏❏❏

なかがわ よしの

生涯作家投身自殺希望。中の人はおじさん。早くおじいさんになりたい。

プロフィール

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。