北風と太陽

住人

北風と太陽が、どちらが強いかでいいあらそっていました。


議論ばかりしていてもきまらないので、それでは力だめしをして、旅人の着ものをぬがせたほうが勝ちときめよう、ということになりました。


  北風がはじめにやりました。
  北風は思いきり強く、
「ビューッ!」と、吹きつけました。

旅人はふるえあがって、着ものをしっかり押さえました。
  そこで北風は、いちだんと力を入れて、
「ビュビューッ!」と、吹きつけました。
  すると旅人は、
「うーっ、さむい。これはたまらん。もう1まい着よう」
と、いままで着ていた着ものの上に、もう1まいかさねて着てしまいました。
  北風はがっかりして、
「きみにまかせるよ」と、太陽にいいました。

−−−

きっと、誰もが一回は読んだことがあるであろう、イソップ寓話のひとつ「北風と太陽」である。

−−−

わたしは、悩んでいる。

どうやったら愛しい「旅人」の「上着」を脱がせられるのか、を。

−−−

いつのときだっただろう。

あるとき、付き合ったばかりの彼氏の待ち受けがチラリ、と見えたのだ。

−綺麗な待ち受けだね。どこかの風景?

−うん、昔旅行に行った時に撮ったものなんだ

−ふうん、誰と行ったの?

−ん?前付き合っていた人だよ

−?!

−あ、深い意味はなくて。気に入っているだけだから。

ちくり。心が痛い。

そのときはやり過ごしたものの、どうも納得がいかないのだ。もやもやする。どうやったら、「彼」の「ケータイ」の待ち受けを変えられるのか。。。

この日から待受変えよう合戦がはじまったのである。

わたしはいろいろな方法を試みた。
出かけては写真を撮り、新しい待ち受けにしよう!と提案する。

彼がいない間に待受をこっそり変える。。

それでも、彼の待受は変わらない。

次第に口論になる。
お見苦しいからここで会話の内容は伏せる。

だけど、待受は変わらなかった。

−−−

半年が過ぎた。

相変わらず待受は変わらないし、少しもやもやするけど、仕方ない。半ば諦めつつも、さりげない「待受変えない?」コールは続いていた。

さて、今日はちょうど彼の誕生日である。

誕生日はいつもより綺麗な格好をしていつもはなかなか行けないレストランに行って食事をする。

そして、もうひとつ。
ありきたりなのかもしれない。
今回は特別。
普段は照れくさくて言えないことをアルバムにした。夜な夜な写真を貼り付けて、コメントを書く。

自己満足、かもしれない。
でも、伝えることは大切だから。。。

目の前で渡すのは恥ずかしいから彼の家の机にそっと置いておく。

いつも、ありがとう。そんな手紙を添えて。

−−−

1週間が過ぎた。

あれ、

待ち受けが変わっている。

しかも、わたしと初めて遊びに行ったところ。

彼はあっけらかんとした顔で、

「いい写真でしょ〜」

なんて笑っているのだった。

こうして、わたしの約1年間にわたる、
愛しい「旅人」との戦いは終わったのだ。

「旅人」は「上着」を脱いだのだ。

−−−

コトバには大きな力がある、と私は思う。

コトバをどう伝えるかは自分次第。

伝えかたでその人の心に冷たい風も、暖かい風も吹かせることができる。

そんなことを感じた出来事だった。

る る

る る です。 モットーはのんびり、ゆっくり。 時に葛藤を。 ことばを紡ぐ不思議な空間が居心地いい。 そんな空間、おどりばに参加したコトがきっかけ。 これか...

プロフィール

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  1. ゆうり

    はじめまして。ゆうりと申します。
    めっっっちゃ素敵な話ですね。
    相手を変えることって基本的に出来ないけれど、自分の行動により心を動かすことは出来る、みたいな…
    わたしはモヤモヤすることがあっても、「相手の行動を変えられないから、もう期待しないでいるしかない」的な諦めに近い感情を抱いて、遣り過ごしてしまいます。
    でも、るるさんは、自分から行動した。そして、お相手の方も、行動した。
    お相手と向き合うことも、自分から「アルバムを作る」「手紙を書く」という行動をなさることも、勇気が要ることだと思います。
    言葉って、本当に大切ですね。
    改めて気付かせてくださりありがとうございました。

    • る るる る

      ゆうりさん
      コメント、ありがとうございます。
      言葉って大きな力を持っていると思います。
      ただ、伝えるタイミングや伝え方、、
      難しいですよね。
      これからもいろんな角度で伝えること、わたしも頑張っていきたいです。

  2. しえさんしえさん

    ドキドキ、ヒリヒリ、しながら拝読しました。
    こんな感想で申し訳ないと思うのですが、一編の小説を読んでるような気持ちに。引き込まれました。
    わたしにもパートナーがいるので、
    もし同じような状況になったらわたしはどうやって伝えたらいいのだろうと考えました。
    でも難しい。きっとはっきり「嫌だから変えて!」と言ってしまうだろうな。

    • る るる る

      しえさん
      コメントありがとうございます。
      わたしも、最初は本当にそうで。
      言葉って本当に難しい、そんなことを学んだ出来事でした。ヒリヒリもドキドキもわくわくも。言葉次第なんですね。

  3. Clara/くらら

    言葉は武器になる。良くも、悪くも。何気ない時の一言さえも誰かの一生の一瞬を変える時がありますね。

    • る るる る

      くららさん
      コメントありがとうございます。
      以前おどりばでもテーマでしたが、あの言葉で救われた、とかあの言葉でああなった、とか、、
      本当に言葉の持つ力って大きい。