p.3:ヒップホップに生きようぜ、夏
梅雨が明けた。夏が来た。今年の梅雨は、長かった。
連日降りしきる雨の中、街を歩く多くの人は元気がなさそうに見えた。私も例に漏れず、毎日偏頭痛に悩まされ、どんよりと曇る空に心を沈ませた。
正直、心が沈むどころではなかった。苦しかった。痛かった。ぼろぼろになった。
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7月の半ば辺りから、おどりばの「住人回覧板」が読めなくなった。ここに住む人の言葉は、重量感がある。書くことと同様、読むことにエネルギーを使う。だから、読めなくなった。
というのは嘘ではないけれど、本当の本当は。
自分が書くものよりすごい文章を見たくなかった。自分の文章が誰かより劣っていることを知りたくなかった。
みんな違ってみんないいなんて、嘘だ。
私たちは図ってか図らずしてか、誰かと誰かを、何かと何かを比べている。
でもおどりばはそういう場所じゃない。誰かの文章と、誰かの文章を比べる場所じゃない。もっと、あたたかい場所だろう?
裏切っているような気がした。おどりばというあたたかい場所で、暴れ回って窓ガラスを割るような、悪いことをしている。そんな気持ちで、私は自分の文章とほかの人の文章を比べた。
だけど梅雨の時期には、比べることすらできなくなった。私が吐き出すことばは、ほかでもない私のからだの一部で、こころの一部で。もし、肯定してもらえなかったらどうしよう。誰かよりも劣っていることを、自分で認識したくなかった。
元気がなくてつらくて、負けないように頑張ろうとも思えなくて、頭が痛くて、つらくて、いらいらして、だから、だから、重くてあったかくてすごい文章なんか、読みたくなかった。
「人が粗を探すのは、劣等感の行き場がないからだ」
誰かの歌がそう言っていた。
劣等感の行き場がない。
まさにそうだった。
私は他人の粗探しをして、愚痴ばかり零していた。人の嫌いなところを見てはイライラして、人のすごいところを見てはつらくなって。
どうして雨は、劣等感を洗い流してくれないんだろう。こんなもの、何のためにあるの。どうして私は、こんなに劣等感でいっぱいなの。
膨らむ劣等感と、おさまらない偏頭痛が、私の頭を押し潰した。息ができない。
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私がそこから抜け出したのは、梅雨明け宣言がニュースで流れるより少しだけ早かった。
きっかけは、HIPHOPを好きになったことと、とあるゲームアプリに出会ったことだ。
まず、HIPHOPを好きになったこと。
正確には、HIPHOPという「生き方」に共感したこと。
HIPHOPっていうのは、音楽のジャンルではなくて文化のことを指すらしい。元々貧困地域の人達が犯罪やドラッグに手をつけなくても生きていけるように考えられた文化がルーツになっていて、「つらい経験はしたけれど、だからこそ今の俺がある」という考え方が根強いのだ。
私は、しなくていいならしたくなかった経験をいくつかしてきた。どれをとっても、しなくていいならしたくなかった。だけど、だからこそ今の私があって、私にしか伝えられないことがある。
自我が形成される大切な時期にツイてなかったけど。それでも幸せになれるって証明したくて生きてる。だから私は文章書いてる。
私の人生、まさにHIPHOPじゃん。
HIPHOPと自分の目標とする生き方が重なった瞬間、私はあっさり没頭した。
特に好きなのはフリースタイルのラップ。汚い言葉も出てくるけれど、それだけじゃない。もっと強くて、熱い、彼らの生きるエネルギーが溢れ出すのだ。ただの悪口のぶつけ合いじゃない。
彼らは自分の人生で感じてきたことを、自分の人生そのものを、ビートに乗せて訴える。Microphoneを握って、訴える。
それじゃあ私は。
筆を執って、訴える。キーボードを叩いて、訴える。
HIPHOPに生きてみたい。新しい目標が出来た。
次に、とあるゲームアプリに出会ったこと。それはスーパーマ〇オみたいに走ったりジャンプしたりしながら、幼少期、少年期、青年期、中年期、老後、つまり生まれてから死ぬまでを体験するゲーム。
走っているとアイテムが流れてきたり、人と出会ったりする。流れてくるのは、本やサッカーボール、タバコや食べ物、コイン。それをジャンプして取ったり、「せんたく」して友達になったりする。
自分が取ったものや自分のした選択で、性格や進路、寿命や幸福度が変わっていく。
そして、人生が終わったあとにエンディングで人生を振り返る。職業が何だったか、趣味にはどれくらい打ち込んだか、友達とはどれくらい親密だったか、家族をどれくらい大切にしたか、周囲の人からどう思われていたか。
最後に走馬灯のように過去を振り返っていく。
(ゲームの内容を文章だけで説明するのはちょっと難しい!ごめんなさい)
シンプルなゲームなのだが、人生の再現が妙にリアルで、考えさせられるものがある。私はまんまとハマり、まんまと「考えさせられた」。
このゲームをやっていて気付いたことがある。エンディングの内容は、ゲーム中の選択を忠実に再現してくれる。だけど、幸福度に関しては「死ぬ時の幸福度」が人生を総括する。
たとえば、学生時代に幸福度が高かったとしても、ゴールするときの幸福度が低かったら、人生の振り返りはすべてネガティブなものになる。
つまり「最期に幸せだったかどうかで、人生全体の幸福度が決まる」ということ。
現実の人生も同じなのではないか、と思う。最期に幸せだと思えるかどうかが、人生全体の幸福度を決めるのかもしれない。
だけど現実の人生は、最期がいつ訪れるか分からないのだ。
私たちは、いつ死ぬか分からない。
だから、「今」を積み重ねていくしかない。今を幸せにしてあげるしかない。
逆に言えば、つらい過去が胸につっかえていたとしても。今を幸せにしてあげていれば、幸せになれるということ。
今を大切に!とはよく言われていたけれど。その言葉がなんだかしっくりきたきっかけが、このゲームだったのだ。
私はどちらかというとネガティブ思考だし、ものごとを悲観的に見がちだし、梅雨の時期もずっと塞ぎ込んでいた。でも、それが損だと気付いた。
梅雨終わらないし雨だしジメジメしてるし低気圧だからかずっと頭痛いしバイトつらいしお金ないし将来のことは不安だし全然楽しくない!
降りしきる雨の中、ずっとそう思っていたけど、口をつくのは愚痴ばかりだったけど、だけど、今の私を幸せにしてあげる努力、しただろうか。
無理矢理幸せだと思うのは違うと思うけれど、幸せになれるように自分なりにおまじないをかけてあげることくらいはできないか。
「今の私を幸せにしてあげる」
そう考えるだけで少し、こころもからだも軽くなった気がした。だってその方がお得だもん!
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そんなこんなで私は、鬱々とした心の梅雨を抜け出した。
単純だと思った人もいるだろう。HIPHOPやゲームについて、そんなに深く考える?と。
私は単純なことで落ち込むし、単純なことで復活する。すぐ「何か」の影響を受ける。ちょっとしたきっかけひとつで、ひたすら思考を巡らせる。
チョロい。 そう。私はチョロいのだ。
チョロいからこそ、すぐに傷付く。チョロいからこそ、出会った人や物事からたくさんのものを吸収できる。その度に自分をアップデートできる。チョロくてよかったな、と思う。
梅雨はつらかった。でも、止まない雨のおかげでチョロい私を少しだけ好きになれた。
掌を返すように猛暑が襲ってきたけれど、私はこの暑さに立ち向かうつもりだ。そして今の私を幸せにしてあげるんだ。
きっと夏が終わる頃には、そんな自分をもっと好きになる。
だってそれが、私にとってのHIPHOPな生き様だから。
うめこさんの痛いけど、ずるい自分を否定できない。傷ついてもやっぱり生きていたいんだなぁという言葉選びが好きです。
私も自分の言葉を書きたいと思わせてくれます。
かおるさんはじめまして!コメントありがとうございます。とても遅くなってしまったのでこの気づいていただけるか分からないけれど返信します!
素敵なコメントありがとうございます!
我ながら生きるエネルギーがみなぎっているなあと思います(笑)
かおるさんが自分の言葉を書いた日には、ぜひ教えてくださいね!見に行きます!
うめこさん
興味深くまた読ませていただきました。
音楽をやっている身としてもまた
新しい観点から音楽を観れるような気もしたり。
きっと、文化を作ってきた先人たちだって
同じ人間だから、私たちが私たちたる所以を
探しながら生きていたのかもしれない
その時は、それが文化って形ではなくて
みんながやっていること、みんなが共感すること
って感じで受け入れられたのかもしれない
けど、それをあえてつかみ出して
それこそ私の生き方です。っていえるのは
勇気がなければ、意外に断言できない
事なのかもしれない
うめこさんにとってのhip-hopな生き方
出来るといいですね。
自分が作り出す潮流は
自分の文化になる
それが確固たるものであればあるほど
またそれが魅力になる。
そんな人の集まりがひとつ、
おどりばなような気もしている。
また楽しみにしております!
てぃーたつさん
コメントありがとうございます!
最近はもう、悩みにぶち当たったら自分が今考えていることしていることはヒップホップだろうか?と自問する癖がついてきました。
ヒップホップという文化は、ものすごい私に影響を与えました。この歳になってもなにかに突然ハマれるちょろい人間でよかったなあと思います。
いつか、おどりばがひとつの文化になればいいですね。なんて、大きすぎるかなあ?
今更読みました 晋平太好きです R指定も好きです ぜひみてみてください
らむちゃん ありがとう〜!
晋平太はフリースタイルダンジョン制覇した人だよね、見たことあるよ!晋平太とラスボス般若のバトルはめっちゃ好きで何回も見た!
R指定は圧倒的推しです。クリーピーナッツもめちゃすき。韻踏み倒してるところもいいし、内容もしっかり通っていて、ほんとにいつでもかっこいい。やばい。はやくラスボスとしてのバトル見たいんだけど、まだまだしばらく先だろうな〜
ちなみに残りの推しはDOTAMAとニガリなんだ〜!DOTAMAはかわいいしキレッキレのディスでボコボコにされたいとすら思う。ニガリは長野県の誇りだと思う。まじでかっこいい。尊い。
オタク全開の返信してしまったのでこの辺にしておきます。笑
わたしはうめこさんに嫉妬した。
もうこれでもかってくらいに嫉妬してる。悔しい。
うめこさんは、わたしなんかが書けない言葉を持ってる。
嫉妬したとか悔しいとか、そんな言葉をぶつけられても…と思う。
困るよね、ごめんなさい。でも、筆が、iPadを叩く指が止まらない。
夏が終わって、自分をもっと好きになったうめこさんに会いたい。
(トップの写真超かっこいい!好きです!)
しえさん〜〜〜!いつもコメントありがとうございます!
嫉妬なんて恐れ多い言葉…でも嬉しいです。そう言ってもらえて。しえさんの言葉は、いつも元気や勇気をくれます。たぶんリ〇ビタンDより効果あります!笑
夏が終わりかけの今の時点では、夏が始まる前より自分のことが好きです!しえさんに会えるのめっちゃ楽しみだな〜〜〜っ!
ショートヘアになりました。今伸びっぱなしで、しえさんに会う頃には微妙なかんじになってるかもしれませんが頑張って整えていきますね!
そんなHIPHOPな夏ももう終わっちまうね。私は劣等感ではなく、かっこつけたいという見栄と面倒臭がりな面からおどりばの記事を読んだり読まなかったりしてた。でも面白いんだよね、気が向いた時に見てみると、なんか短編小説を読んでいるかのようで楽しい。
私は君に興味を持ったよ。さて秋はどう過ごす?多分私はメランコリックになるかなあ(笑)
くららさん ありがとうございます!
興味を持っていただけてめっちゃ嬉しいです〜〜〜!りあるいどばためっちゃ楽しみにしてます!
そうですね、夏が好きなのもあって、秋になっていくのは寂しいですね。今年の夏は短かった。
でも私、秋も好きなんです!夏服があんまり似合わなくて秋服が好きだし、コスメの色味も似合うものが多い季節だし!
食べ物も美味しいですよね!実りの秋!実はくららさんのお料理、食べたくて仕方ないです。