行き場のない愛とこれから

住人

教育実習が無事終わりました。誰かに話したくてたまらなくなるほど、幸せな3週間だった。あれ、思い返すだけで、なぜか涙が溢れてしまうな。これは何の涙なんだろう。感謝、後悔、安堵、寂しさ、罪悪感、達成感。どれでもないような気がするけど、全部当てはまる気もする。理由のわからない涙だ。

気がつけばあっという間に全6時間の担当授業が終わり、お別れの日になっていた。最後の1時間は全校で体育館に集まって、お別れ式をしてくれた。そのなかで、教頭先生がお話をしてくださった。

「目を閉じて実習生との思い出を振り返りましょう。たくさん遊んでもらったり、授業をしてもらったりしましたね。」

休み時間は氷おにやジャングムジム鬼ごっこをした。彼らは氷になっても2、3歩なら歩いていいらしい。謎ルールだ。あちらこちらから「せんせえー、こっちこっち!」と挑発されるから、「こいつめ…!」と思って追いかけると全然追いつかなくて、ぎゃあぎゃあ言いながら毎日走っていた。
給食の時間は牛乳早飲み対決をしたし、牛乳パックの底に書いてある数字を毎日チェックした。「今日わたしは8歳で、先生は1歳だね。」そうか、牛乳の底の数字が今日の年齢になるんだね。
図工の時間は子どもたちと一緒になって、手のひらに絵の具をつけてはぺたぺたたくさん手形をつけたし、授業中けんかして教室を飛び出してしまった子と一緒に校内をお散歩したこともあった。

算数を2回と英語と体育と道徳の授業をした。知識を暗記させるだけの授業じゃない、子どもたちの「やってみたい!」から展開させる授業はとても難しかった。指導教官の先生は本当に頭のいい方で、1から丁寧に教えてくださった。そして、子どもの発言や行動から授業を作ることにこだわっていらっしゃった。
一方わたしはびっくりするほど飲み込みが遅くて、何度も同じことを説明させてしまった。

小学生から苦手だった算数は、やっぱり苦手だった。予想外の子どもの発言にフリーズしてしまい、授業のねらいを見失い、収集がつかなくなった。幸か不幸か、偉い先生がその授業を見にいらっしゃっていて、放課後に1対1で事後指導をしていただいた。私自身がそもそも教える内容を十分に理解していなかったことを指摘された。教師がわかっていないなら崩壊するのは当たり前だと思った。わかってないのに授業してしまって、指導教官の顔に泥を塗ってしまってごめんないとか、その次の週控えているもう1時間の算数の研究授業はどうしようとか、情けなさと不安で頭が真っ白になってしまった。
しっかり準備したつもりだったのになあ。全部自分が悪いのに、なぜか悔しくて悲しかった。一度ばかになった涙腺はなかなか戻らず、次の日の朝までぐずぐずしていた。

振り返ると、他の実習生は結構褒められていたのに自分が褒められたのは数えるほどだった気がする。技術は後からついてくるとよく言われるけどそれにしても、だ。
本当にダメダメ実習生だったけど、まわりの人の優しさにたくさん助けられてなんとか頑張れた。
英語の授業前日に急遽アルファベットカード1000枚を切ることになったときは、同じクラスの実習生が一緒に手伝ってくれたし、登校10分前になってワークシートを印刷し始め、遅刻する!とわたわたしていたときには一緒に行こうと待っていてくれた。
研究授業前は、同じ学科の友達が学年もクラスも違うのに模擬授業に付き合ってくれた。
授業で失敗したのが悔しくて職員室で泣いていたら、ある先生に「何月生まれ?」と聞かれた。答えると、「7月生まれは、自分の意思を伝えることが大切だよ。」と言われた。土日になるたび「もう無理だ~先生なんてできない~」とぐずぐずしていると、いろんな人が大丈夫だよ、あなたにはこんないいところもあるじゃん、と励ましてくれた。
目の前のことで頭がいっぱいになっているときこそ、周りの人をそっと気遣える人でありたいと思った。

「目を開けてください。目の前の実習生に、感謝の気持ちを込めて手を振りましょう。」

なんだそれ、ずるいぞ、泣かせにかかってるじゃん、と思いながらみんなを見ると、手が千切れるんじゃないかってほど手を振ってて、つい笑ってしまった。でも、溢れる涙は止まらなかった。クラスのやんちゃ坊主がハンカチを持っていた。「嘘泣きしてんじゃん(笑)」と思っていたけど、後から聞いたら実は本当に泣いていたらしい。ちゃんと寂しかったのね、かわいいなあ。嘘泣きだと思ってごめんね。
みんなで「ありがとう」を歌った。

最後、退場の時もみんなは手を振ってくれた。司会の先生は拍手でお見送りしましょうって言っていたのに、手を振っていた。

一瞬手を振り返してしまった。式だから最後まで教師らしい態度で、と言われていたのに。

「あっ。」と思ってすぐ手を引っ込めた。何にも考えず、反射で手を振り返してしまったあの瞬間。あの一瞬に、実習の全てが詰まっていたような気がした。

わたしはやっぱり、この子たちが大好きで大好きで仕方がないんだ。今までは先生を見て、先生になろうと思っていた。でも、今は子どもたちを見て先生になりたいと思う。教育学部に来て、この子たちと出会えてよかった。この子たちが大好きだからこそ、いろいろ言いたくなってしまったり、逆に言わなすぎてしまったり。本気で授業や子どもたちと向き合って、失敗して落ち込んだり、伝えたいことが伝わって嬉しくなったり。子どもたちの「わかった!」とか「できた!」という顔を見ると、自然と笑顔になっていた。

正直、実習はとても辛かった。たくさん泣いた。でもクラスのみんなのために頑張れること、そしてみんなの素直な反応を1番近いところで見られることが何よりの喜びだった。

最後にもらった手紙にまた泣かされた。

「吉田先生の授業は楽しかったから、本当の先生になってもぜったい大丈夫。」
「忘れられない先生です。もういい先生だと思います。」
「先生は授業大変だったって言ってたけど、先生の授業楽しかったよ。」
「鬼ごっこ楽しかったね。また一緒に鬼ごっこしようね。」

「また」なんてあるのかね、それはいつなんだろうなと思いながら、実習が終わってから3日くらいは何も手に付かなかなくて、もぬけの殻になっていた。でも、それだけあの子たちのために頑張れたんだってことを証明しているかのようで、なんとなく嬉しかった。もらった手紙を何回も読み返して、何も手につかないことが嬉しいって変なのと思いながら、余韻に浸った。

そして、教員である父と母に長文LINEを送った。

まだ、「先生になりたい。」って堂々と言えない自分がいる。いつか「なりたい」が「なっていいのかな」を超えたら、先生になろうと決めている。それはいつなんだろう。

それよりも、クラスのみんなにまた会いたいなあ。
次はいつ会えるんだろう。来年の運動会も、その次も、卒業するまで会いに行きたいなあ。あ、でも本当の学校の先生になったら、もしかしたらもう一度あの子たちの先生になれるかもしれないのか。あの子たちの先生にはなれなくても、あの子たちくらい大好きになれる子どもたちに出会えるのかもしれない。そんなの、想像しただけでニヤニヤしちゃうじゃん。

さと

本名です。この名前、自分でも気に入ってます。 薬屋にいるオレンジのゾウもサトちゃん。

プロフィール

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  1. しえさんしえさん

    教育実習、お疲れ様でした。
    大変な、でもとても良い時間、良い経験をされたんだなというのがひしひしと伝わってきました。
    さとさんは、まだ「先生になりたい」と堂々と言えない自分がいるとのことですが、
    私は「でも、今は子どもたちを見て先生になりたいと思う。」この一言で十分なのではと思いました。
    何が十分なのかは、すみません、うまく言語化できないのですが、、、なんとなくそう思ったのです。
    さとさんが、吉田先生になる日を密かに心待ちにしております。(その日を私が知れるかは別ですが…!)

    • さと

      しえさん、ありがとうございます。
      この文章を丁寧に受け止めていただけて、とても嬉しいです。
      「この一言で十分」ということば、伝わりました。わたしもしえさんのコメントを見て、これで十分だ、と思いました。上手く言えませんが、たぶんしえさんの思う「十分」とわたしの「十分」は同じじゃないかなと思います。
      吉田先生になれたときにはぜひ報告させてください!