麦わら帽子

住人




彼女はいつも、白いワンピースを着て
麦わら帽子をかぶっていた。 



人が何か嫌なことがあって、くるしいときも
つらくて泣いているときも
うれしくてたのしくて、笑っているときも 



彼女はいつも、
その肩をちいさく揺らして笑っていた。 



決まって両手で口元をおさえて、
すこし下を向いて。 



短い髪は麦わら帽子からは見えなかったので、
その長さもちゃんとはわからないけれど、
きっと帽子を脱いだらふわふわと揺れているのだろうとおもう。 






彼女をよくおもう人は、あまりいなかった。
むしろみんな、
自分が悲しいときに、辛いときに、
関係ないのにそこで笑っている彼女を
いつも怪訝な目で見ていた。 



だから彼女はいつも1人だった。
いつだってひとりぼっちで、
それでもいつもいつも、
そのちいさな肩を震わせて、
笑っていた。 






ぼくは、
そんな彼女といっしょにいることも
できなかったし、
みんなのように彼女のことを
怪訝な目で見ることもできなかった。 












あるとき、
強い風が吹いた。 










なんら珍しいことではない。
ただ風が、強く吹いた。 








その風は、彼女の麦わら帽子を
大きく上に、高く飛ばした。 


















彼女は、泣いていた。 
















そのちいさな、ちいさな肩を、
震わせて、
泣いていた。 









ぼくは気がつかなかった。 





なんで気づかなかったんだろう。









彼女はみんなが
苦しくて、辛くて、
泣いているとき
いつも一緒に泣いていた。 



みんなが嬉しくて、楽しくて、
笑っているとき、
たった1人で、泣いていたのだ。






ぼくたちは
彼女の顔を見たことがなかった。
いつも、帽子をかぶって、
下を向いて、手で口を隠して、
笑っていた、とおもっていたから。 






だけど、彼女は泣いていた。 




見たことがなかったんだ。 



誰も、
彼女の表情を、
気持ちを、確認しようとしなかった。 







どうしてぼくは、
聞いてみなかったんだろう。 



どうしたの?
なんで笑ってるの?って 



わからなかったのに、
聞こうとしなかったんだ。
知ろうとしなかった。




あの風が吹かなければぼくはずっと
彼女のきもちに気づかなかったんだろう。








あぶない。



またおなじことを繰り返すところだった 








はやく彼女のところに行きたい。
行かないと 








ぼくは次こそ



彼女の目をしっかりと見て、
きもちを抱きしめられるだろうか。 




彼女をこんどこそ、
笑顔にできるだろうか。






きっとそうできたいな。







これからはずっと
ぼくがそばにいるんだ。






ちい

人と話すのが好きです!その人のことを考えるのはもっと好きです。自分の”好き”になりたい、と思っています。

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