p.9：微糖の恋にはレジリエンス

2月に、2度失恋した。

2年近く付き合った恋人と別れ、芽生えた新しい恋は秒速で儚く散った。

心が忙しい。

もうすぐ上京するというタイミングでいろいろなことがうまくいかなくて、何だかさっさと上京しろと言われているような気持ちになる。

だけど不思議と、今の私はそんなに不幸ではない気がする。たぶん。

今日は苦い恋の話をしようと思う。好きな人と食べたかったホットケーキを食べながら。

2年近く付き合った彼とは、半年くらい前からうまくいっていなかった。言い訳ばかりする彼と、愚痴ばかり言う私。いつのまにか、ただの傷の舐め合いみたいだった。

私のことを好きでいてくれている彼と別れたら、この先自分を好きでいてくれる人なんていないんじゃないか、などとひどく利己的な理由で、私は彼と別れることができずにいた。

このままだとお互いに幸せになれないだろう、と思い立って別れたのが2月の初め。

いろいろ建前を並べたけれど、つまるところお互い他に好きな人ができたみたいだっていうのは、後で知ることになる。

他に好きな人ができたという話は人づてに聞いてしまって、自分のことは棚に上げてショックを受けた。でもまあ、私は私で自分の幸せのことしか考えていなかったし、これくらいされて当然だよな、と思う。

惰性で続ける恋がハッピーエンドにならないことを、やっと実感した。嫌な終わり方だったとしても、付き合い続けている方がお互いにとって地獄だっただろう。

そもそも彼と付き合ったことは全く後悔していないし、感謝していることもたくさんある。うまくいっていた頃は本当に幸せだった。彼の犬みたいなところがとても好きだった。ありがとう。

惰性で続けた関係を終わらせた。私にとって、私たちにとって良いことだったんじゃないかと思う。

▲▼

次に好きになった人は、いわゆる「モテ男」だった。自分の魅せ方を知っていて、笑顔と声が優しくて、横顔が綺麗で、女の子に何を言ったら喜ぶのか分かっている人。

何度か一緒に帰ったり、飲みに行ったりした。相手から特別扱いされているような気がして、このまま付き合うものだと思っていた。

私は、テンプレ通りの「モテ男」に、テンプレ通り落とされただけだった。そして振られた。きっと本気になれる女じゃなかったのだろう、私は。

でも、彼を好きになってから毎日楽しかった。どんなことをしていても彼と一緒にいる時間は心地よくて、この時間がずっと続いてほしいと思った。一緒にいなくても、彼のことを考える時間は幸せだった。

私は、失恋した今でも彼のことを尊敬している。彼はどんな行動をとったら周りの人が嬉しくなるのかをわかっていて、常に気を配っていた。彼が当たり前のようにしている言動は、周りの人を安心させたり喜ばせたりするだろうなと思った。私も彼みたいに周りに気を配れる人になりたい。

失恋したけど、彼に会えてよかったと思う。素敵な人にたぶらかしてもらえて幸せでした。

▲▼

お皿いっぱいのホットケーキ、すっかり冷めてしまった最後の一口を頬張って飲み込む。お腹いっぱい。好きな人と一緒に食べたかったけれど、もう叶わない。

でも、苦しくはない。

友達には泣き言を再三聞いてもらった。気になるお店に自分で行っておいしいものを食べた。仲良くなったとあるカフェの店主さんは、閉店後もお店のクローズ作業をしながら私の話を聞いてくれた。

立ち直りの早さだけは自信がある。

なんだかんだで他の人に支えられながら、自分を甘やかしながら、そこそこ内省して、生きている。そうやって前に進もうとしている自分は嫌いじゃない。

どうせ私のことだからきっとまた、いろいろあると思う。上京したら、ネタが尽きないだろうな。

でも今はその度に少しずつ、きっと自分を好きになる。私は成長している。

転んでもただじゃ起きないのが私だ。そうだ。

東京での暮らしや新しい仕事で揉まれながら、もっともっと自分を好きになりたい。自信を持って人と向き合いたい。

いつか、今度は、たぶらかされて泣かないように。

eyecatch photo：Go Takahashi