人生はマラソンなんかじゃない
果たしてゴールなんてあるのか。死んでも、たどり着くことなんてない気が。今は幸せだし、充実した人生。だからたった今、消え去ったとしても後悔はない?
そんなはずはないでしょうよ。後悔しない生き方なんてない。あの夜、彼女と寝ておけばよかったとか、あの時、友人にお金を貸さなければよかったとか、せこい後悔ばかり。
生まれた意味なんて知らねえよ。知りたくもねえよ。金がねえよ。愛人もいねえよ。ほしいよ、≪いいね!≫も名誉も。
そんな小さな邪念に振り回されてばかり。一歩も前に進めない。田んぼの酷い泥濘に長靴ごと持っていかれた感じ。こんなに空は青いのに、他人の芝生も青く見える。妬んで恨んで≪不幸になれ≫って念じている。サイテーなわたし。幸せなままでいられないのを、そんな邪悪さで晴らす。セクシャルハラスメントした覚えはないけれど、蔵春閣の屋上で抱き締めた彼女は、あの夜空の下で、≪嫌だ!≫と叫ばずに叫んでいた。今さら、わかる。
振り返るとわかることばかり。ああすればよかった、あんなことするんじゃなかった、とかとか湿っぽい後悔の言葉の羅列。
でも、そんなことばっか、言ってらんないよな。時間は有限だし、肉体は借り物でいつか朽ち果てる。最近は≪老い≫を痛く感じている。≪若さ≫って才能だったんだな。気づけずに45歳に。いや、まだ間に合うのかもしれない。心の持ちようで、いつまでも青春なのもしれないって、ダサいことを思ったりも。
新鮮なうちに恋をしておきなさいよ。瑞々しいうちにうまいもん食っとけよ。未熟なうちに間違っておけよ。ろくでもないおじさんだから、若いあなたに言えることは、そんな平凡なことばかり。誰かの言葉を借りて言うのであれば、≪いつか誰でも死ぬし、年老いるから、若さを満喫しなよ!≫ってこと。
わたしには来春、中学生になる娘がいる。彼女は勉強が嫌いで、ゲームやYouTubeばかりの毎日。テレビも好きで、ドラマを何本も掛け持ちで。余白の時間も作らずに、堕落な生活を送っているので心配。彼女に伝えたいことがあるのだけれど、うまく言葉にできなさそう。だからこそ、とりとめもない文を以下に。
≪ねえ、あのさ、時間には限りがあって、誰にも一日24時間しか与えられていない。だから時間をもっと有意義に使いなさい。ゲームやYouTubeやテレビが悪いと言っているわけじゃないよ。いろいろなことを経験しておいてほしいんだ。そうすれば、その中から将来やりたいことを見つけられるかもしれないし、逃げ場所を確保することにも繋がるヨ。
人生は辛い。マラソンに例えるなんてバカだね。生きるのはもっとしんどいから、覚悟しておきなよ。未来は明るくなんてない。ウイルスも蔓延して逃げ道はない。戦っていくしかない。登校拒否しても、中退しても、退職しても、あなたの人生からは逃げられない。
きっと数々の試練があなたをどん底に沈めるだろう。底が見えたら、それが幸せだと思いなさい。ささやかなことが光だと感じられるはず。そう思えるように、たくましくなって。そのために、いろいろな経験を踏んでおくべきだと考えます。無駄な経験なんてない。すべてがその時々のあなたの表情に集約される。できれば笑みがこぼれる顔であればいいね。苦労したからこその笑顔を持ってほしい。≫
わたしは人生の半分を折り返した。それとも、もう最終盤? だとしてあと1年生きられるのなら、好きなだけ小説を書かせて。本も読む間を惜しんで書きたい。書きたいから書く。それだけの理由で小説家している。お金はもらえていないけれど、毎日書いているから、立派に小説家だと。成功なんていらない!
あるバンドマンが言っていたことを妻に聞いたんだけど、「有名になりたい」や「金持ちになりたい」とかでバンドをやるのは≪音楽が手段≫ってことらしい。うん、心の底から同意。わたしにとって小説は邪な手段じゃない。楽しい生き方をするための≪手段≫で、それは限りなく透明に近いブルーハーツだったりするわけで。何言ってんだ。ラブ・ミ―・テンダー。自身の人生をやさしく愛すよ。
考え方次第で人は幸福に。それはゴールじゃないし、その先にもゴールはなくて、ただ生きる、それだけ。浮き沈んで当たり前だけど、≪まだこれから!≫っていう若々しさを老いても持っていたい。たどり着く先がないのだから、不安で仕方がない。でも自分を愛せる強さを持っていたい。死んでも別に悲しまれなくていいから、自分だけは人生の最期を悲しみ、笑える生き方をにしたいナア。
〈了〉
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