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住人

 

人生において、「あの時こうしていれば」と思うタイミングがある。
そんなことをくよくよ考えずに結局選んだ道を正解にしていくしかないのだけれど、
「違う選択をしていたら、今頃どうなっていたのかな」と少し感傷に浸って想像することもある。

「小さい頃や若い頃に、これをやっておけば良かった」と思う事柄も、ふと出てきたりする。
僕にとってその一番の事柄が「楽器」である。
小さい頃から何か一つでも楽器をやっていれば良かったなと思う。
楽器を弾ける人はそれだけで尊敬の眼差しである。
場の空気や人の感情を一瞬にして変えることができる。
僕が現実で知りうる中で一番魔法に近い現象である。

一方で、「もしこれをやっていなかったら、自分の人生は想像がつかないな」と思うものもある。
僕にとってそれは「サッカー」だ。
小学校5年生の時に、僕のサッカー人生は本格的にスタートした。
これがなかったら僕はどうなっていたのだろう。

 

小学5年生の春。
僕は児童会の体育委員会で、他クラスの「リュウさん」と一緒になった。
リュウさんは同い年の割に背が高く、ガタイも良くて大人びていた。
髪型はみんなよりも長髪で、手首にミサンガを巻いていた。
僕は彼を「かっけえなあ」といつも思っていた。
彼はあまりペチャクチャ喋るわけではないのに、たくさんの友達がいて、リュウさんリュウさんと慕われている存在だった。
何より彼の存在を圧倒的にさせていたのが、昼休みの時間だった。
昼休みに校庭で繰り広げられるクラス対抗のサッカーの試合。
リュウさん率いる5年2組のチームはとても強かった。
リュウさんは学校とは別組織のサッカークラブに通っていて、サッカーが学年で一番上手かった。
キック力がすごいので、グランドの端から端まで一蹴りでボールが移動する。
それだけで一気に試合の展開が変わった。
キックオフ(真ん中の位置)からのシュートも余裕で届いて、
対戦した僕らは、予想外の距離から得点されてしまいどうしようもなかった。

当時、僕の学年には、土日にグランドで行われている少年野球や体育館で行われているミニバスケに加入する人がたくさんいた。
学校とは別の時間にチームスポーツをやることが楽しそうに思えた。
クラスで仲の良かったマル君と一緒に、野球をやるか、サッカーをやるかで迷っていた。
ふとしたとき、マル君に「どっちにするか決めた?」と聞いたら、
「俺は野球にするよ」とえらくスパッとした口調で言われた。
野球に傾きそうになったが、昼休みのサッカーでリュウさんがやはりかっこいいなと思ったので、
僕はサッカーにすることにした。

次の体育委員会の時、リュウさんに同じサッカークラブに入りたいと話した。
今度の日曜日に犀川グラウンドで練習があるから、体験に来てみるといいよと言われた。
当日、緊張しながらもみんなと混ざって練習に参加したが、体操をしたシーンしか記憶に残っていない。
練習後、迎えに来ていたリュウさんのお母さんが「入りなよ~」とノリノリで押してくれて、僕は入団することになった。

 

その後、僕は小学校卒業までクラブを続けた。
途中で同じクラスの友達2人にもクラブを紹介して、一緒に最後まで続けた。
このクラブの夏合宿で仲良くなった他クラスのKとは、それ以降から現在に続くほどの長い関係の友人になった。
このクラブで知り合った他校のJとは、今もフットサルを一緒にする仲であり、たった2時間の遊びのために南信から飛んできてくれる。
僕はクラブ内ではサッカーが決して上手いわけではなく、いつも補欠選手だった。
クラブに行くのが何度も嫌になって、仮病を使って休んだこともある。

それでもサッカーはその後、中学、高校と続けることになった。
中学では僕より後にサッカーを始めた友人が地区のトレセンに呼ばれていて悔しい思いをした。
高校では部長を経験し、近年の成績を上回る結果を残して引退した。
様々な形の波がありながらも、サッカーを通してたくさんの感情を知った。

大学、社会人になっても、自分の貴重な趣味としてサッカー(フットサル)を続けている。
大学時代はサッカーを通して外国人とコミュニケーションをとり、社会人になってからもサッカーのおかげで新しい人と出会うことが多い。
もしもサッカーをしていなかったら、自分の人生はどうなっていたのだろう。
自分はこんなに自己肯定感を持てていただろうか。
自分はこんなに健康であれただろうか。
自分はこんなに友達に恵まれただろうか。
自分はこんなに人とコミュニケーションを取れただろうか。
ふと振り返ると、今の自分の全てに、サッカーが影響していると感じることがある。

 

最近、小学校の頃のサッカークラブ名でグーグル検索してみると、なんと公式ホームページができていた。
当時の怖い代表も、僕を指導してくれていたコーチも健在で、何だかとっても嬉しかった。

チームの目的:
「FCフェローズジュニアは、サッカーを通して地域の子供の健全育成及び生涯にわたってサッカーを楽しむとともに自立した一人の人間となることを目標として活動しています。」

きっと変わらない。
今はどこで何をしているか分からないリュウさんに感謝して、いつまでも、ボールを蹴り続けたい。

soshi

1991年生まれ。長野市出身。 大学の専攻はジャーナリズム。休学し9カ国放浪後、地元市役所に入る。福祉部門に配属となり、障害者のソーシャルワークなどを行なう...

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