住人

長野を出てから、約半年が経とうとしている。
神奈川の独り暮らしのアパートにも慣れ、小さな部屋と人が溢れる町の中で生きる、様々な場面でどこか孤独を感じる生活にも、あまり違和感を感じなくなってきた。

そんななか、前職の先輩三人が、ぼくの今の職場を見学しに来てくれた。
障害福祉課で一緒に働いた三人。
ぼくがケースワーカー担当になってからたくさんお世話になった人たちだ。
歳が近い訳でもなく、みんな子供を持っているお母さんお父さん世代の先輩である。
そんな人たちが、わざわざ仕事を休んで神奈川まで足を運んでくれた。

10:30を過ぎた頃に、ぼくの職場に現れた。懐かしい顔に、自然と顔が緩んだ。変わらない笑顔だねと言われた。
面談室でとりあえず名刺交換をして(先輩の一人は4月から係長になっていた)、ぼくが現職の会社の説明をして、利用者たちが訓練をしている様子を見学してもらい、11:30頃に一旦お別れをした。

仕事が終わったあと、三人が泊まる新横浜駅に向かい、合流して居酒屋で飲んだ。
あの人がどうだ、この人がどうだ、の話をしてくれた。
残業が多くて大変だと言っていた。(ぼくの3倍近くやっている)
課内でウォーキングチームを作って競い合ってると言っていた。
僕のプライベートの近況を掘り漁ってきた。
鬼無里のTシャツと、栗ご飯と、食べるわさびと、シャインマスカットのお菓子をくれた。
居酒屋の代金を出してくれた。
元気にやっててよかった、またね。と言ってくれた。
課のメンツで北陸か東北の旅行に行こうと計画してるからね、と言ってくれた。

なんで、こんなにあたたかいのだろう。

たまたま仕事を数年一緒にした仲である。

もう前職を辞めたし、長野県を出た人間なのに、なんでこんなに仲良くしてくれるのだろう。

僕は仕事場だと協調性がない。前職でもそうだった。
一人で勝手に黙々と仕事をするタイプである。他人に手を貸さないし、面白い雑談ができないし、先輩の飲みの誘いを断ることが多い。
そもそも、歳が違う人と話すことが非常に苦手だ。どの程度の距離感で話せばいいのか全くわからない。
特に年上からしたら全然可愛いげがないだろうなと思う。人を慕うことができない。

なのに、なんでこんなに優しくしてくれるのだろう。

ぼくは三人に、何をしてあげられているのだろう。

三人は、ぼくに何かをくれてばかりである。

解散して、新横浜から電車に乗り、最寄りの駅で降りた。
上を向くと、綺麗な月が出ていた。

soshi

1991年生まれ。長野市出身。 大学の専攻はジャーナリズム。休学し9カ国放浪後、地元市役所に入る。福祉部門に配属となり、障害者のソーシャルワークなどを行なう...

プロフィール

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  1. しえさんしえさん

    ありきたりな言葉だけど、
    soshiさんが人から優しくされるのは、
    きっとsoshiさんが誰かに優しくしてるからだと思います。
    それはその3人の方に向けたものではなくても、
    他の誰かに向けた優しさがぐるりと回り回って3人の方から返ってきてるのかもと。

    soshiさんは仕事場では協調性がないと書いてるけど、
    もしかしたら黙々と仕事をするsoshiさんの姿は、
    soshiさんが思ってる形とは別にしっかり評価されてるんじゃないかなと思いました。
    だからこそ、その3人の方はsoshiさんに会いにきたり気にかけたりしたのかな。
    〜かな、〜かな、とあれこれ想像ばかり書き連ねてすみません。