夢見る夢子、秋の夜長に何を想う
20歳の冬。コンクリートの床と革張りのソファ。大好きな年上の女性と過ごす午後3時のティータイム。磁器のマグカップに淹れてもらったミルクティーをちびちびと飲み、お土産にと持参した焼き菓子をほおばりながら、わたしはおしゃべりに夢中だった。
アート系デザイナーや、「anan」や「popye」で執筆するコラムニストへの憧れとか、気になる人にチョコレートを渡したとか、そんなことだったか。彼女は「うんうん」とひとしきり聞いた後、あきれたように、でも少し楽しそうに、「リコちゃんは『夢見る夢子ちゃん』だねぇ」と笑った。
「世間知らずの若い娘」と揶揄されているのだと思った私は、少し腹が立つ気持ち半分、でも何も言い返せない恥ずかしさ半分で、下を向くばかりだった。
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そんな「世間知らずの若い娘」も社会に出て2年目。残念ながらアート系のデザイナーにはなれていない。就いたのはデザイン制作会社の企画営業職。コラム執筆の仕事はあるけれど、オシャレ雑誌には程遠い。それでも同じ畑で働いている。概ね、満足。
毎日、目の前にある「いただいた仕事」をこなしていく。無理をせず、自分のペースで。わたしは超人じゃない。すごい人たちとキャパシティーの比べっこをしたところで、自分のことが嫌になるだけだ。そんな無意味なことはしない。
相変わらず物事を知らなくて、自分にうんざりすることもあるけれど、少しずつ仕事のこなしかたは覚えてきた。歯を食いしばって、涙を流す日もある。それでも、結構充実しているよ。
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人間関係も悪くはない。心地よい関係性づくりのために人との距離感を調節することは、必要不可欠なスキルだと思う。
「わかってほしい」なんて思っちゃったり、自分に都合のいい展開を期待しちゃったりもするけれど、自分と他の人とは別の人間だってことは理解できるようになったつもり。
理想通りのストーリー展開にならなかったところで、関わった人を嫌いになったりしない。付き合いを続けるために相手に変わってほしいなんてもう思わない。「居心地悪いな」って思うようになったら近づかない。時間がたてばどうにかなるでしょ。それでOK。
チョコレートの恋は、後味も思い出せないくらいに消化してしまった。そのほうが幸せってこともあるだろう。
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心地よく、楽しく、おもしろく生きるのが、わたしの人生の命題。5年後、10年後、どうなっているかなんて全く分からないけれど、ささやかな日々を積み重ねていくんだろう―。
あの日の「夢見る夢子ちゃん」は、今月23歳になった。
「現実を受け入れる大人」に向かって、少しずつ、歩みを進めている。
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なんて、なにをかっこつけているんだか。
ただ、怖いだけだ。言い訳と逃げばかりの、情けない自分を思い知ることが。
才能がない。日々忙殺されていることを言い訳に努力もしない。打ちのめされて、傷つくのが嫌だ。プライドだけが高くって、まだまだ足りないって事実を認めたくない。
人とのコミュニケーションだって、足がすくみっぱなしだ。自分にとって都合が悪い面も、まるごと受け入れたときに訪れる苦しみを、ただ怖がっている。
そんな弱い自分を、なんとか綺麗に聞こえる着地点に落とし込もうとしているだけだ。
最初の一手で出会う「ネガティブな出来事」を恐れてしまう。
逃げたほうがよっぽど楽だよと、本能がささやく。その声に従って全てを突き放す。
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常套句①<今、結構幸せなんだよね。あるものに満たされることも大切なのかなって。
常套句②<人を嫌いになることって、あんまりないんだよね。最初から信じてないから。
全然傷つくことがないんですよ。このスタンス。負ける可能性がある戦には手を出さない。万が一乗っかってしまっても、勝利に笑う瞬間は想像しない。最初から思い通りになるなんて思ってなかったよ~って責任転嫁して諦める。
そうすればね、人のことも自分のことも全然嫌いにならずに済むわけですよ。奇跡的に上手くいったときには嬉しさ10000倍。めっちゃお得。
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って、いやいやいやいや、さすがにダサすぎる。
これがわたしの憧れる「大人」?
人と、自分と、まっすぐ向き合うんじゃなかったのか。
なりたかったのは、「ものわかりがいいふりをした臆病者」か?
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動き出す前に諦めないで。
下手くそも、ボロボロも、受けとめて。
目を覚ませよ、夢子。23歳と0か月。
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