東京

住人

私は今、東京を去る電車に揺られている。

これまで幾度となくこの電車に乗ってきたはずなのに、この気持ちは初めてだ。

まだ東京が遠い世界のように感じていたあの頃の気持ちなんてだいぶ前に無くなっていて、元彼が住んでいた赤羽から帰るときの気持ちともまた違う、なんだろう、とにかくさみしくてさみしくて、でもとてもあたたかい。

3か月限定の都会生活が終わった。

6月の自分には考えられないくらい、忙しくて、でも毎日楽しくて。

ただ、まったく自分と向き合う時間がなかった、帰りの電車の中、今だとばかりにアイフォンのメモに心から湧き出てくる言葉を綴ってみる。

「東京になんて絶対住めない」

「満員電車がつらい」

「汚いし、臭いし、何より人が冷たい」

なんて、まったく思わなかった。

3か月住んでいても、まだ足りないって思うし、地元より何もかも便利だし、24時間開いているお店だって多い。さみしいときは人が集まるところへ行けばいいし、一人になりたいときは一人になれる。近すぎず、離れすぎず。人とも街とも程よい距離を保ちやすい。

満員電車がつらいって思わなかったのは、ただ単にその時間帯に電車に乗らなかっただけなんだけど。東西線は他と比べて空いていたし。多分乗ったらつらいって思う。

さっきちょっと嘘ついた。汚い、臭いって思う事はあった。腹立たしくて泣きたくなるくらい、いやなこともあった。冷たい人もいた。

でも、そこは愛であふれていた。多分、今電車で泣きそうなのは、嫌な思い出を忘れてしまうくらいの、愛にあふれた人々のことを思い出して、だと思う。

東京にはいろんな人がいた。東京の人ってみんな一括りにするけど、地方出身の人のほうが多かったよ。みんながいう東京の人も、誰かのことを東京の人って言っていた。東京の人って、だれ

チャラそうに見える人は、人一倍人見知りだった。

お堅そうに見える人は、すごく自分に似ていた。

なんでもできる人は良い意味で適当な人。

なんでもできない人は、1つの分野のプロフェッショナルだった。

その怒りの裏には愛があった。

みんながすごいと言っている人のことは、どうしても自分には普通の人にしか見えなかった。

私は、私だった。でも確実に変わっている。愛したいものが増えた。ただいまって言える場所が増えた。

わたしはそこでの生活の中でいつの間にか、追いかけられる人になりたいと思うようになった。

他人と比べて、ああ、自分には何も自慢できるものがないって思った。同じ年代の人々の中にいても、特別目立つことはない。ファーストインプレッションだって、次に会った時に覚えていてもらえるほど、強くない。

でも、粘り強くて、負けず嫌いで、誰よりも人への愛はあるよ。たぶん。

社会人って難しい。私は社会人になれるのだろうか。東京では、私は社会人だった、でも社会人じゃなかった。

(くわしく言うと、)周りに社会人としての扱いを受けて、大人になれと言われ、社会人になっていた。実際は、社会人のふりをしていただけだった。

難しいけど、楽しくて、周りより早く大人になれているようで。

かけっこではいつも一番になりたかった。同じくらいのタイムの人たちより、遅い人達と走ったほうが、タイムが良かった。

気持ちが良いからなのか、周りと比較して自分が優位に立っていることが。

働くことが、大好きになった。やりがいがあれば、お金なんて関係ない、って今は思っている。けど、そうに思うのはまだやっぱり子供だからなのだろうか。

お金お金お金って、

ある人はお金に虜になってしまった。大きな夢をかなえるための”手段”の一つだったお金が、いつからか”目的”になってしまったのだろう。

大きい夢も、さっき交わした約束も、全部無くなってしまう。

またね、また会える気がするって、あの人はそう私に言った。

何も知りたくなかったな。私が知っていたあの人は、良い人だ。

お前は人を信じすぎだって、そんなこと言われたって分からない。

もし目の前の人が他の人から極悪人だと言われていても、私の前で良い人だったら、私は自分の目で見た前にいる人を信じたい。

どうかまた、笑って会えますように。

少なくとも、私がみた人、街、モノは愛のかたまりだった。みんな誰かに愛され、愛していた。

愛なんて言葉、恥ずかしい、クサいなんて思ってたけど、今の気持ちにぴったりと当てはまった。

hoatam

童顔とO脚に悩む21才。じゃがりこを与えられると喜びます。

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