p19:呪いを解く魔法なんてないけど、

住人

人に流されやすく、ふわふわしている自分にも
ひとつだけ大事にしていることがある。

「そこにいる自分が好きか」問いかけることだ。

この場所にいる自分のことは好きだろうか?
この人といる自分のことは?
これをしている自分のことは?

そう問われたら、今の私は
全部好きじゃない、と答えると思う。

私は、
東京にいられなくなってしまった自分のことも
恋人を大切にできていない気がする自分のことも
劣等感を感じたくなくて人に会えなくなった自分のことも
惰性で趣味に時間を費やしてしまう自分のことも

全部、好きじゃない。

私以外のすべての人がちゃんとして見える。全方位劣等感。

身体を壊したとき、何も考えたくないと思った。
仕事なんてここ以外の健やかな企業ならなんでもいい。
優しい恋人と、優しい友達と、幸せな生活をしたいと思った。

実家に帰ってきて、仕事をせずに手当を受け取りながら生活をしている。
1〜2ヶ月に一度、遠くに住む恋人に会って遊ぶ。
多くはないけれど、働かなくてもお金が入ってくる。
ゆるい暮らしだ。ゆるい幸せだ。

だけど、自分を甘やかせば甘やかすほど、
自分のことが好きじゃないと思った。クズだと思った。

身体がボロボロでも、働いていた頃の方が楽しかった。
自分のことが好きだった。

何をしても、東京から離れてきた虚しさが、
仕事をやめた虚しさが消えてくれない。

これは、だめだ。

前に進もうとしなければだめだ。
自分のことを愛せないまま、ただただ腐っていくだけだと思った。

お医者さんの言う「休みましょう」を心の片隅に置きながら、
少しずつ就職活動を始めた。

就職活動は自分のことを知るきっかけになった。

得意なことと、やりたいことは別だ。
私は、得意なことを中心に仕事を探してみたけれど
「やりたい」と思えなかった。

東京にいる頃お世話になっていた先輩に就活のことを相談したら
「うめこは、自分の好きなことには口を出されたくないんじゃない?
もしそうなら、好きなことを仕事にしないほうがいいと思う。」

「認められるにはやりたいことがお金になるレベルになる必要があるけど
そこまでは耐えられないと思う」

と言われた。それはそうだ・・・何も言えなくなった。

でも、先輩に言われたとき、
微かに反発したくなった自分がいた。

私、本当は・・・・

わからない。わかっているくせに、わからない。
私は、私のことがずっとわからない。わかっているくせに。

先日、ある求人を見つけた。

今まで見ていた求人とは胸の高鳴り方が違った。
私は、はっきりと、この仕事がやりたい。と思った。
この仕事をしている自分を想像したら、好きだと思った。
その仕事は、やりたいと口に出せなくなったことだった。

私は、「つくる」仕事がしたい。
言葉をつかって、周囲の人とかかわりながら、
前職で乗り越えられなかった企画と向き合って、
また何かをつくりたい。

やりたい。
でも受からなかったら?また振り出しに戻るの?
もし働けたとして、失敗したら?同じように体調を崩すかもしれないよ?
こわい。

でも、やりたい。

私は、やりたいことがある。
それは、優しい恋人と、優しい友達と、ゆるい幸せな生活をすることじゃない。

・・・じゃないことはないな。

優しい恋人と、優しい友達と、幸せな生活をすること。それだけじゃない。

やりたいことから目を背けないで、失敗しても壁にぶつかっても、
何度でも立ち直れる自分でいたい。弱いだけの自分でいたくない。

じゃなきゃやっぱり、私は私を愛せない。

つくづく面倒くさい人間になってしまったと思う。
こんな自分を何度呪ったことか。
だけど私は世界で一人しかいないし、もう受け入れるしかないんだ。

呪いを解く魔法なんてないけど、私はまだ生きている。

応募ボタンを押した。
またひとつ、ページが捲られた。

うめこ

すごい人になりたかった人です。

プロフィール

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