“他のだれか”って、だれ?

住人




2019年7月23日火曜日 19:00
『最新のニュースをお伝えします。』

学校が終わり、家についた僕は
特にすることもなく、スマホをいじりながら
ソファーに座っていた。

「急に暑くなってきたな。」
梅雨は無事に明けたのだろうか。
最近はなんだかじめっとしたような、むしろ肌寒いような雨の日が続いていた。
あ、そういえば冷凍庫にいつか買ったアイスがあったかも。


『今日は全国的に青空の見える地域が多く、久しぶりの真夏日となりました。』


あーやっぱどこも暑かったんだ
「もう夏かー」
暑いんだよなあ夏。あたりまえだけど。
アイスうま。
スマホのネットニュースに好きなアーティストの全国ツアーについて載っていて、それに夢中になる。
去年の倍以上の会場動員数になるらしい。やば。


『続いてのニュースです。昨日記者会見を行った…』


「えっまじ!やった」
メールが届いた。
先ほどニュースで見ていた全国ツアーの当選メールだ。
「あいつに自慢しよ。まじでついてる~」
最近人気が出て倍率がかなり上がっていたので、本当にうれしい。
きっとまた心に残る大切なライブになるだろうなと思った。


『これは難しい問題ですが~僕はこう思いますね、彼らが…』


友達に自慢のメッセージを送って満足したので、今はまっているスマホゲームアプリを開いた。
最近は、これが生きがいで一番の楽しみだ。(少し言い過ぎだけど)
「これこれこのガチャがやりたかったんだよね~~」
ゲームに夢中になると、時間はあっという間に過ぎていく。





  ピロン
LINEだ。
「なんだなんだいまいいとこだったのに。」
最悪のタイミングだ。
どうやらバイト先の居酒屋で受け付けた予約がうまく入っておらず、
すごい勢いで怒ったお客が店で暴れたらしい。
  ピロンピロンピロンピロン
予約の電話があったはずの日に誰が出勤していたのか、もしくは受け付けた予約をだれが確認し処理したのか、
犯人探し兼責任のなすりつけ合いが起こっていた。
「うるさいなあ」
エリアマネージャー的な人がめちゃめちゃ怒っているみたいで、
心底こんな日にシフトが入っていなくてラッキーだったなと思う。

だいたい、
うちの店では予約を受け付けた時点でみんな、お客さんから聞いた必要な情報をメモをして、それを次の日の予定ノートに貼り付けているはずだし、
電話が来たら店長に必ず内容を確認される。
それに予定ノートに記入するときは2人以上でと決まっているので、そこが間違うことはほとんどない。どうでもいいけど。
ていうかだいたいの場合その様子を目撃している誰かがいるはずだし。



「だれか見てたやついないのかよ」
『だれか見ていた人はいなかったのでしょうか』



さっきからついてはいたけどラジオのようになっていたテレビのニュースと、声が重なった。


『男性はいまだ目を覚ましておらず、現在意識不明の重体ということです。』


「またなんか事件か?」
画面の右上には、“速報”の文字がある。
どうやら道に倒れていた男性に誰も気づかず、救急への通報が遅れたことで
その男性の命が脅かされているらしい。
しかも場所は人通りの多い場所だったようで、目撃者がいない方が不自然なくらいだそうだ。
「そのまま通り過ぎるとかほんとに人間かよ~」
まあどうせ海外の事件だろうと思った。
どこかの国では誰かを助けたら自分が疑われ、犯人扱いされてしまうからうかつに助けられないなんて話も聞いたことがある。
倒れている人を素通りするほど日本人は意地悪くない。
もし倒れたのが日本だったらすぐに助かっただろうに。運命とは残酷だ。
あー暑い、アイスもう一個食べよ。


『いやあ、まさかこんなことが日本で起こるとは、正直僕は残念です。』


ニュース番組に出ているはげたコメンテーターみたいなおっさんが言った。
「え、これ日本の話かよ」
一般的に温厚と言われている日本人もついに倒れている人を素通りするようになってしまったらしい。けっこう衝撃。
残念だ、確かに。

「まあ都会の人は冷たかったりするからなあ~
他人に興味ないっていうか。」
自分もあんまり他人に興味がありありなタイプではないけど、
そもそもここはドがつくほどの田舎だし、そういうのはたぶんあんまり関係ない地域だろう。
しかしアイスがうまい。そしてゲームの調子がいい。


『場所はあまり関係ないかもしれないですが、まさか地方の駅前となると、
なんとなくショックですよね、』


女性のアナウンサーが言った。
なんと。地方の駅前…
田舎じゃないか。
どうやらここも気は抜けないらしい。
寝っ転がってアイス食べてる場合じゃないかもなあ


『ここで男性が倒れていた現場と中継がつながっています。○○さーん』


アナウンサーが現場にいるリポーターに呼びかけ、現場の様子が映る。



「え」



《はい。現場の○○です。今私は男性が倒れていた××駅に来ています。
今の時間帯、人はかなり少ないですが、通勤通学時間にはたくさんの人が利用しているということです。男性が倒れていた場所は…》


「いやいやえ?え?」
床にアイスが落ちるのが目の端に映ったが、テレビから目を離せない。




テレビに映っているのは、僕の家の最寄りの駅だ。



いやいやいやいや、
ないない
だってここ田舎だぞ?笑
ドがつくんだよド田舎
いやえ、まあ駅は一個しかないしそれなりの人は使ってるけどだって
だって、
だったら、


《男性を見た人たちは、なぜ男性を助けなかったのでしょうか。》


それ。
それだよ
「なんで、」
さっきリポーターが言っていた通り、夜は人通りが少ないが、
昼間、特に朝と夕方の通勤通学ラッシュはそれなりに結構な数の人が駅を利用していて、人が倒れていたら目につかないわけがない。
僕も毎日通学に利用している。
本当に、みんな素通りしちゃったのか、


《男性はいまだ昏睡状態が続いています。》


いや、きっと人が少ない時間だったんだろう。
この辺の人はそんなに冷たくないし、だれにも見つからなかったんだ。
うんきっとそうだ。運の悪い人だな、すごく。

そう思いながら僕の心臓は、今まで生きてきた中で一番バクバクいっていた。



『○○さん、男性が倒れていたのは何時ころなのでしょうか?周りに人はいなかったのですか?』
《はい。男性が倒れたのは、監視カメラの映像から、午後4時半ごろだということが分かっています。》


「うそだろ、それじゃあ」



《その時間、帰宅してくる学生や会社員が多くいたはずなのですが、》
そうだ。そういうことになる。
『男性が緊急搬送されるまでの30分間、誰も声をかけなかったということですか?』
《そういうことになります。30分後、やっと一人の男性が声をかけて119番通報したということです。現場からは以上です。》




30分、、、
いつか、誰かに聞いたことがある。
昔、アメリカかどこかで夜中に女性が襲われた事件があった。
突然現れた男にナイフで刺されたんだった気がするけど、その悲鳴を聞いて目撃した人は40人近くもいたのに、女性はそのまま30分以上襲われ続けて死亡してしまった。現場から車で二分のところに警察署もあったのにだ。
そこにいた誰もが、(誰かが通報するだろう)そう思っていて、結果誰も通報しなかったのだ。
何とか効果っていうんだよな、なんだっけ、


それが、自分の住んでいるところで起こるなんて、







「……30分?」
おいおいちょっと待ってくれ。
それはない、さすがにないだろ、
4時半から30分後
5時。




僕が乗ってきた電車が駅に着いたのは、
4時52分。
通ってる。
自分も、その時間、そこを、



「うそだ、」
信じられない。信じたくない。



『男性が倒れたのは持病の心臓病の発作によるものだということですが、』



ほら、僕は関係ない、だって見てない、
酔っぱらいのおっさんは二人くらい寝てたけど、それだけだ。
はやい時間から邪魔だなと思ったんだ。
その人は見つかりにくいところにいたんだ。
アンラッキーだったんだ、



『先ほどの通り、倒れていた場所は駅出口の階段下なので、目に入らないということはなさそうです。』



「階段下…?」
うそだ。
うそだうそだだって、
酔っぱらいだと思ったんだだから、


『こういうのは僕は見て見ぬふりをした人も加害者になりうると思うんですよ。まあ今回は持病だけど、倒れた人に声もかけないなんて。同じ人間とは思えませんね。』


「うるさい…」
加害者なわけないだろ適当なこと言うなよおっさん、
だって僕は何もやってないんだから
こうなったらどうにか、
命だけは助かってくれ
何もやってないのにこれじゃあ、





ああ、 そうか

何もやってないんだ
僕は






『速報が入ってきました。』




何もやってないから





『先ほどのニュースの男性は、病院で死亡が確認されました。』





運命は、残酷だ。

いや、運命ってなんだ、




『死因は持病の心臓病による発作ということです。』






ああ思い出した、
“他のだれかが助けに行くだろう”
“他のだれかが通報するだろう”
“他のだれかがどうにかするだろう”


“他のだれかが”



「…傍観者効果だ。」






“他のだれか”って、だれだ









※もちろんフィクションです。アメリカの事件以外は全部フィクションです。登場人物にも、モデルはいません。(一応書いておきます)

ちい

人と話すのが好きです!その人のことを考えるのはもっと好きです。自分の”好き”になりたい、と思っています。

プロフィール

関連記事一覧

  1. ワタナベワタナベ

    むちゃくちゃ良すぎて鳥肌たちましたし、フィクションでも、「おどりば」感というか、考えさせられるところがありました。「他の誰かがなんとかするから」じゃなくて、「自分が」なんとかしなきゃいけない場面もありますよね。自分が当事者になったら、受け入れたくなくても受け入れなきゃならないこともある。これは身近にありうる、誰にでもありうる話だと感じました。つまりなにがいいたいかというと、とても刺さる文章でした!

    • ちい

      なべさんーーー(て呼んでみます)
      ありがとうございます、本当に身に余りすぎるお言葉です、
      運が悪いで済まされないニュースをアイスを食べゲームをしながら見ない人になりたいなと思います。。
      自分が関わってないから関係ないなんてことはないなあと思う毎日です。

  2. ricopin

    スクロールしてる右腕がぞくぞくした。

    社会では電話は3コール以内に取るのがマナーだけど、今日は4回以上なってた時が何回あっただろう。35人もいる会社なのに、ってことを思い出した。

    自分自身も、「誰か」の「誰か」の1人なんだなあ。

    • ちい

      りこぴんありがとう‍♂️
      んんん右腕ぞくぞくは嬉しすぎるな、
      書きながら心拍数が上がって暑くて汗が出てきたのは自分のエゴだと思ってだから嬉しい

      予約とったとこ、自分はほんとに見てなかったのかちゃんと思い出して欲しいよね。
      そこで責任なすりつけあってるのも、倒れてた男の人も、素通りした人も、みーんな人間で日本人なんだなあ。
      あ、僕ももちろん。

  3. オートオート

    ちいさん、はじめまして!オートです。コメント、失礼します。

    読み進めていくうちにざわつきが膨張していって、枝豆を食べてた手が止まりました。
    読みながら(この事件、一体いつどこで起きたんだ…読み終えたらググろう……)
    と決めてたので、最後に思いっきりしてやられました。
    逃げ場のないところまで、鮮やかに引きずり出されました。ありがとうございます。

    場当たり的に自分を守ろうとしがち、心当たりがあります。
    「酔っぱらいだと思った」僕もそう思ってしまうだろうと容易に想像できる。
    (あの人大丈夫かな?…いや、誰も声をかけてないし。たいしたことじゃないだろう…たぶん、酔っぱらいとか。にしては早い時間だけど。……)
    もやもやしながらも「気付かなかった」ことにすれば、責任を回避できるとでもいうように。
    自分がその場にいなかったら今度は「同じ人間とは思えない」と差別化して、自分との関係を消してまた、自己防衛。
    そんなこと繰り返してたら、いつか、自分が見殺しにされてツケが回ってくるのかも…

    こちらの記事は問題提起だけでも核心を突いてるのに、それを伝えるフィクションの技巧がすごく効果的で。
    自分が中高生のころに読んだらどう考えたかな…

    • ちい

      オートさん!!!
      なんと、、、
      コメントしていただいたのが嬉しくて
      なんと返そうなんと返そうと考えたままになってしまっていました、、、、
      せっかくしていただいたのに本当にごめんなさい(T-T)

      すごく深いところまで読み込んでいただいて、、すごくすごくすごく嬉しいです。
      さらっと読んでも、過ぎたところを読み返すとなんとなくいくらでも考えることがあるな、、、と思いました。自分で書いた文章なのにちゃんとわかっていないような、
      そこを共有できているような気がしてすごく嬉しいです。(こればっかりですね)
      でも本当に嬉しいです!!!

      リアルを信じていただけるとはそれはほんとにオートさんの想像力の力だと思うのですがらこれもまた嬉しいです、、、、
      とにかく嬉しかったのです!!!笑

      まだまだまた頑張ります。
      ありがとうございます!!!( ◜◡◝ ) ちい

  4. Clara/くらら

    他人事にしがちな人間。