『バースデーブルーに花束を』

住人

▷▶︎▷▶︎19920912→20190912

熊木杏里の『誕生日』という曲が好きだ。

生きてきたようで生かされてる

そんな私であってあなたである

おめでとう

今日まで辿りついたんだよ

熊木杏里/『誕生日』

この歌詞に全私が泣きながらスタンディングオベーションしてる。そう、誕生日というのは、文字通り“辿りつく日”なのだ。なぜなら誕生日前が1年で最も情緒不安定になるから。それは過去、誕生日前にあれこれ起きすぎて「今年も何かあるかもしれない…」とトラウマになってるのもあるし、漠然とした不安も混ざりあってたりもする。「お葬式を黒字に」という呪文も効かないほどの死にたがりを発動して発狂しそうになる。それをなんとかやりすごして命からがら誕生日に辿りつく。だから毎年、「今年も生きられた」と思い、そして目標として「また1年、生きる」を掲げる。そうやって1年1年命を繋いで、私は今日27歳になった。

▷▶︎▷▶︎『バースデーブルーに花束を』


「バースデーブルー/誕生日ブルー」という言葉を最近知った。誕生日前後に憂鬱な気持ちになることだ。誕生日前後に自殺率が高まるのはバースデーブルーが原因らしい。(らしいと言うのは、ソースを確かめられなかったから)なるほど、私が毎年誕生日前に発狂しそうになってるのは、バースデーブルーなのかもしれない。バースデーブルーだと仮定しよう。バースデーブルーになる原因はなんだろう。心当たりはいくつもあるけど、1番大きな原因と思しきものに焦点を当ててみる。

20歳の誕生日。それは特別なものだと思っていた。でも、思い描いていた誕生日にはならなかった。誕生日の少し前、母が入院した。ずっと具合が良くなかった母。その日は特に酷くて、震える手で救急車を呼んだのを覚えてる。不安や恐怖を抱えて救急車の後を追った。その日からしばらく母は入院した。毎日慣れない運転でお見舞いに行った。誕生日当日もお見舞いに行った。ベッドの上で「ごめんね、20歳になったのに…」と言う母に、私はなんて返したか覚えていない。誕生日の夜、母は病院に、父は出張で遠方にいた。家には2つ年下の弟と私の2人。弟がどこからかケーキを出してきた。ケーキにはなぜかサンタクロースのマジパンが乗っていた。「どうしたの?これ」と聞くと「去年のクリスマスケーキ……解凍しないで残ってたから解凍してみた」弟の精一杯の優しさが切なくて愛おしかった。誕生日プレートの代わりにサンタさんのマジパンをもらった。マジパンはベタな言い回しだけどしょっぱかった。

20歳は、大人。大人の仲間入りを盛大に祝福して貰えると思ってた。でも、実際は祝福ではなく、不安と恐怖という試練を与えられた。だからだろうか、この時望んでいた祝福を受けられなかった後悔が、亡霊のように現れるのは。きっとこの亡霊がバースデーブルーになる原因のひとつだと思う。どうしたら成仏してくれるのだろうか。例えば当時望んでいた祝福以上の祝福を得られたら……きっとこの亡霊は成仏してくれるかもしれない。

でも、祝福は…というか欲しいものは受け身では得られないことを私は知ってる。だから誕生日アピールをした。恥も外聞もかなぐり捨てて、私は誕生日を迎えるんだと叫ぶ。自分ひとりではこの亡霊を成仏させられないから、人様の力を借りる。ただ借りるだけではダメだ。感謝の気持ちもきちんと示そう。誕生日は「生きてきたようで生かされてる」。周りの人達がいるからこそ、迎えられる日なのだ。そんなふうに考えて、誕生日アピールをしたり、感謝の気持ちを形にする準備をしながら日々を過ごした。誕生日当日、たくさんの祝福をいただいた。

祝福を寄せてくださった皆様、本当に本当にありがとうございました。私はその祝福のひとつひとつを好きな花のイメージに変換して、その花で花束を作りました。亡霊に、亡霊になってしまった20歳の私へ、27歳になった私からのプレゼントです。

きっと、まだ成仏できないと思う。気付いてあげられなくてごめん。あの時の不安や悲しさ、恐怖は簡単には癒えないよね。だから、その傷が癒えて、成仏できるその日まで、私は君に花束を作り続ける。烏滸がましくも人様の力を借りて、祝福と言う名の花を集めて、花束を贈るわ。バースデーブルーに花束を。

▷▶︎▷▶︎27歳、新しい目標。

毎年誕生日が来るたびに「また1年、生きる」を目標にして生きている。この記事を書く直前、「私はもう『生きること』を目標にしなくてももう生きていける気がする」と思っていた。本当にそう思っていたし、そういう方向で記事を書こうとしていた。でも、実際にはそれとは真逆の方向に暴走してしまったので、今年もおとなしく「また1年、生きる」を目標に粛々と生きていきたいと思う。

その目標とは別に新しい目標ができた。それは「人の期待に応えない」だ。最近人から「あなたは人の期待に100%、120%で応えてしまう」と指摘された。確かに。意識/無意識問わず、私は誰かの期待に応えようとしていた。人の期待というのは、わかりやすく「期待してるよ」と肩をぽんとするだけではない。「ああしたらおもしろいんじゃない?」「こういうのやってみなよ?」という何気ない一言も私は全部期待として受け止めてしまっていた。傲慢にもそれら全部打ち返そうとして、摩耗して、頻繁にガス欠を起こしていた。

先の指摘を受けてしばらく経ったある日、「もうそれやめよう」頭の中でそんな声が聞こえた。私が摩耗しながらも期待に応え続けてしまったのは、誰かに喜んで欲しかったからだ。人の喜ぶ顔が好きだった。でも、それはもうやめよう。自分をすり減らしては元も子もないのだ。言われたことをやって喜んでもらおうとするのではなく、自分が、自分自身が楽しいと思ってやった結果喜んでもらえたら儲けもん。そう考えるようにしようと思った。

27歳の私は、人の期待に応えようとすることをやめる。今日から1年間、27歳の私として懸命に生きる。28歳の私にバトンを渡すために、命を繋いでいく。
「また1年、生きる。そして人の期待に応えない」それが新しい目標。

▷▶︎▷▶︎あとがき
ここまで読んでくださってありがとうございます。気がつくとなかなかのボリュームに。誕生日ということもあって書きたいことが多く、でも、誕生日だから書ける、誕生日にしか書けないと思って詰め込んでしまいました。
この記事を書いてる途中、ゆうりさん(9号室)のお誕生日記事(ゆうりさん、お誕生日おめでとう!)を読み、烏滸がましくも、似たような気持ちを抱えてる人がいる、独りじゃないんだ!と嬉しくなりました。ゆうりさんの記事を読んで、途中まで書かれた自分の記事を読み返して、「もう少し丁寧に書こう」とか、「この表現は何か違うかも」とちょっとずつ軌道修正しました。おどりばに入居する時に思った「他の住人の方が書いた記事に反射しながら自分の記事を書きたい」というささやかな願いが思いがけず叶えられた形です。

最後に。おどりばのために生まれたしえさん。最初は自分でも(自分なのに)掴めなかったので、プロフィール写真を被り物の写真にしていました。でも、記事を書くうちに少しずつ輪郭がわかってきて、誕生日だし、良い機会なので被り物を外しました。ちょっと新しいしえさんです。どうぞよしなに。

しえさん

どこかの映画館にいるような、いないような人。被り物はもういらない。

プロフィール

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  1. ゆうりゆうり

    しえさんー!!
    お誕生日おめでとうございます!
    しえさんのお誕生日の記事が読みたくて、1カ月前から楽しみで仕方なかったです!しえさんの記事を楽しみに生きてたから、自分の誕生日のどん底を生き延びました!
    バースデーブルーという言葉、初めて知りました。
    じゃあ、わたしの誕生日死にたくなっちゃうのもバースデーブルーかな。
    確かに20歳って、節目の年齢だから、毎年のお誕生日よりも特別な感じがしますよね。その特別な日が、しえさんは大変だったのですものね…。確かに自分の誕生日に、ご家族に何かあったり、波乱が起こったりすると、「ああ、今年も遂に来てしまった…」って身構えてしまいますよね…。
    それから7回のお誕生日が来て、その度に乗り越えて来たんですよね、しえさん…!
    葛藤や気分の波があって、でも周りに当たる訳にもいかないし、でもしんどいから暴走して、余計自己嫌悪に陥って…とか、そういう思いもあったのかな…?って想像します。
    近くにいたら、「しえさんお誕生日おめでとう~!頑張ったね!!」ってめっちゃハグしたい!!!ぎゅー!って思ったのですが、多分しえさんを困らせてしまいますね。汗
    等身大のしえさん、素顔のしえさんも、素敵です。被り物を外したしえさんのこれからの記事も、わくわくしながら読みます。
    しえさんはきっと頑張りやさんだから、人の期待に応えようとするのですね。でも、「無理なもんは無理」って突っぱねても誰も離れていかないし、しえさん自身が楽しくやるのが、きっと周りの人も安心するのと思います。きっと大丈夫。「人の期待に応えない」新しいしえさん、それもレベルアップした結果のひとつですね。
    どうか無理せず…!
    しえさんに、今日からの一年間、たくさんの楽しいことが訪れますように!一年間生きてくれてありがとうございます。来年も、お誕生日おめでとうって伝えますね!!わたしのことも書いてくれて嬉しかったです、ありがとうございます(照)

  2. しえさんしえさん

    ▷▶︎ゆうりさん
    ゆうりさんからのコメントが嬉しすぎて、
    何度も何度も読むうちに時間がどんどんすぎてしまいました。
    ありがとうございます。という言葉が止まらないですね。

    >葛藤や気分の波があって、でも周りに当たる訳にもいかないし、
    でもしんどいから暴走して、余計自己嫌悪に陥って…とか、そういう思いもあったのかな…?って想像します。

    もはや想像が的確すぎて、あれ?もしかして実は会ったことある?
    なんて思いドキリとしました。御察しの通りでございます。
    困らないどころかウェルカムなのでハグしてください!笑

    私の拙い記事を楽しみだともわくわくしながら読みたいとも言ってくださるゆうりさんは女神様みたいなお人ですね。
    嬉しくて涙がぽろぽろしてしまいます。次の記事も誰かの言葉に反射しながら丁寧に書いていきたいと思います。
    私もゆうりさんの記事を楽しみにしながらまたひと月過ごしますね。

    お互いバースデーブルーを乗り越えたので、また1年間楽しく過ごしましょうね!

  3. あかっぱ

    しえさん、すごくすごく後れ馳せながら、誕生日おめでとうございます✨☀️✨

    しえさんの、いつもたくさんのおどりばのメンバーに対して丁寧にコメントしている姿をみて、すごく、人に対して誠実で、丁寧な方なんだろうな、と思って、いつもすごいなーと思ってます

    20歳の誕生日。
    ぼくも、ちょっと感慨深く、期待していたにも関わらず、寂しく一人で過ごして、またしょげる、なんてことしてました。
    でも、誰にもいってないんだから当たり前ですよね。
    そんなことも思わせてもらいました❗

    人に対して丁寧なしえさんだからこそ、無理しすぎずに、人の期待に応えすぎないで、自分のからだにご自愛くださいね(*´ω`*)
    よい一年になりますように✨

    • しえさんしえさん

      ▷▶︎あかっぱさん

      お祝いのコメントありがとうございます。
      コメントはそのメンバーさんにというよりも、
      実は自分のためでもあるんです。
      その方の記事を読んで感じたことを留めておきたくて。
      コメント欄を拝借して残してる、そんな感じです。

      やっぱり誕生日って期待してしまいますよね。
      願わくば、言わなくてもおめでとうって言われたい。
      誕生日アピールすることはすごく勇気がいります。
      でも、お祝いされなかったなーと自分をしょんぼりさせてしまうくらいなら、
      ぐっと勇気を出して、「誕生日なんだ!」って言ってしまった方が、
      案外気持ちが楽になったりします。
      もしよかったら、あかっぱさんのお誕生日、教えてくださいな!
      次の誕生日はぜひお祝いの言葉を贈らせてください。

      ありがとうございます、良い一年をすごします!

      • あかっぱ

        ありがとうごさいます!
        ぼくはいつも一歩を踏み出す勇気より「まあ、お祝いされなくてもいいか」と思ってしまう、(それと、そもそもそうしたスケジュール管理が苦手汗)ので、やっぱりそういう面でもすごいなと思います

        ぼくは5月30日です
        そういってもらえて嬉しいです❗また来年ですがよろしくお願いします!

  4. こもれびこもれび

    しえさん、コメント頂いたのが嬉しくて、こちらの記事に辿り着きました。
    いつもアイコンのお写真がお洒落ですね。何より、お誕生日おめでとうございます。
    おどりば住人さんの記事は、あまりにも想いにあふれていて、共感し過ぎてなかなか直視できないのです。

    しえさんの記事も、その言葉一つ一つがジンと伝わって来ます。
    お誕生日、たしかに、SNSを見るとハッピーであふれていますが、きっと本当はみんなこのバースデーブルーを抱えている。
    その実態が何なのかも分からずに、祝福されることを期待する余りに、、、

    自らに花束を買ってあげて、周りに生かされていることを感謝する日。
    それはいいですね。
    人の期待にも応え過ぎずに、喜んでもらうことも期待せずに、自分を可愛がってあげる。
    それは自分自身にも言い聞かせたいです。

    コメントなのに長くなってしまいました!ありがとうございます。
    本当の意味で成仏を願うばかりです。

    • しえさんしえさん

      ▷▶︎こもれびさん

      コメント、そしてお祝いの言葉ありがとうございます。
      >>「おどりば住人さんの記事は、あまりにも想いにあふれていて、共感し過ぎてなかなか直視できないのです。」
      わかります。とてもわかります。読んでいてついつい共感し、感情が揺さぶれられぐらぐらしています。
      私はその気持ちをその方のコメント欄に残させてもらうことで毎回なんとかやりすごしています 笑

      みんな、きっと大なり小なり「バースデーブルー」を抱えてるのかもしれないと、自分でも書いていて思いました。
      願わくば、誰かのバースデーブルーを和らげられたらなあ、なんて傲慢なことを思ってしまったり…。

      成仏を願ってくださり、ありがとうございます。ほんとうの意味で成仏できるよう、彼女にとことん付き合う気持ちです!